2024/06/14

第11部  石の名は     11

  テオ、ガルソン中尉と別れてロホは大統領警護隊文化保護担当部のオフィスに戻った。ケツァル少佐は先に戻っていて、同じフロアの各部署の責任者達と集まって話をしていたが、石に関係することではなさそうだった。大統領警護隊と言えば普通のセルバ市民から畏敬の念で対応されるのだが、この職場、このフロアでは同じ仲間だ。少佐の意見に真っ向から反対する人がいれば、彼女のつまらない冗談に大袈裟に、しかし真剣に笑う人もいる。少佐も同様で、和気藹々とした様子だった。
 ロホは己の机の前に座ると、カウンター前の席にいるギャラガを見た。少尉はカウンターにもたれて昼寝中だった。まだシエスタの時間だから、誰も文句を言わないし、客もいない。
ロホは電話を出して、ガルソン中尉から教えられたセフェリノ・サラテの番号にかけてみた。以前別件でサラテと会った時、彼はガルソンを不祥の甥として話していた。大統領警護隊に入隊して村の子供達の憧れであったのに、不祥事を起こして降格・転属になり、後進の人々を失望させた、と悔やんでいたのだ。ガルソン自身は故郷に未練がなさそうで、夫の不祥事で村に居づらかった妻と子供達をグラダ・シティに呼び寄せて安定した生活に甘んじている。それでもサラテの連絡先を覚えているのは、やはり血縁を大事に思っているのだろう。
 オルガ・グランデもシエスタの時間だったらしく、サラテは少し眠たそうな声で電話に出た。ロホが名乗ると目が覚めたのか、声の調子が変わった。

「ブエノス・タルデス、お元気ですか?」

 セルバの礼儀として当たり障りのない世間話を始め、ロホは辛抱強く付き合った。そして、適当な話の切れ目に要件を出した。

「ところで、セニョール、貴方は北部の砂漠にあったラス・ラグナスの遺跡について何かご存じですか?」
「ラス・ラグナス?」

 サラテはちょっと間を空けてから、「ああ・・・」と言った。

「水源が枯渇して移転した村がありましたね。その近くに遺跡があったと聞きましたが・・・一族とは関係ないでしょう?」

 一般の”ヴェルデ・シエロ”は”ティエラ”の文化に無関心だ。どうして「神」が「人間」のやることに注意を払わねばならないのか、と言うレベルだ。守護しなければならないレベルでなければ、関心がない。ロホは苦笑した。

「一族と関係ありませんが、昔のことを知っている人がいれば教えて頂きたいのです。」
「つまり、長老とか祈祷師を?」
「スィ」

 するとサラテは少し時間が欲しいと言った。この「少し」がどの程度の長さの時間なのかわからないが、ロホは承諾して電話を終えた。


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