2024/06/16

第11部  石の名は     12

  セフェリノ・サラテから折り返しかかってきた電話は、ロホをがっかりさせた。オエステ・ブーカ族の祈祷師も長老もラス・ラグナス遺跡や遺跡にまつわる言い伝えは知らないと言う返事だった。ロホは石にまつわる話が何かないかと期待したが、サラテは

「”ティエラ”の祭祀に関心を抱く者はいないでしょう。」

と締め括った。考古学に興味がなければ、そんなものなのだ。大統領警護隊でも一般の隊員は古代の呪いや神様の祟りなど無縁だ。彼等が心配するのは、現代の爆弾やサイバーテロや生物兵器のことで、その対処方法や防止策を学ぶのに忙しい。’人の血を吸ったかも知れない石’のことを追いかける文化保護担当部が「緩い部署」と呼ばれるのも無理はない。
 電話を終えて、ロホはシエスタ終了迄自席で目を閉じて座っていた。石の正体がわからないことより、目の前で石を盗まれたことが悔しかった。
 ケツァル少佐に電話!と隣の遺跡文化財担当課から声がかかった。責任者会合はもう終わったのだろう、少佐が素早く自席の電話に向かった。

「オーラ、ミゲール少佐・・・」

 少佐が電話の相手と少し喋ってから、「グラシャス」と言って通話を終えた。そして部下達を見た。

「警察から連絡がありました。故買屋の家を我々が捜索しても良いそうです。」

 ギャラガが目を開いて、顔を上げた。上官をチラリと見ると、すぐにカウンターの下からプレートを出し、上に置いた。窓口休業だ。大統領警護隊文化保護担当部お得意の臨時休業。隣の遺跡文化財担当課の職員達が苦笑するのを横目で見て、彼は肩をすくめた。
 ロホも机の下からリュックを出した。外で活動する時の必需品だ。隣の課は大統領警護隊が盗掘品の捜索に行くと思っている。実際、遺跡周辺で拾った物は盗掘された物と見なしても構わない。
 少佐も外出の準備を手早く済ませて、3人はオフィスを出た。

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第11部  太古の血族       2

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