故買屋ホアン・ペドロ・モンテと言う男の店舗兼自宅はグラダ・シティの旧市街地にあった。狭い路地に面した店は間口が狭い道具屋で、日用品が所狭しと積み上げてあった。警察が張った規制線の黄色いテープを跨いで、3人の大統領警護隊は中に入った。警察官や付近住民とのゴタゴタが面倒なので、3人とも制服を着用だ。緑色に輝く胸の徽章の威力で、誰も何も言わずに彼等が建物の中に入るのを眺めていた。
警察は表に面した店には手を入れていなかった。盗品は店の奥の部屋にあったので、そちらは散らかっていた。ガサ入れの後だ。金目の物は大方警察が没収している。被害者が警察に被害届を出していれば、警察に行って品物を確認出来る。盗まれた物があれば、それは故買屋と被害者の間での交渉次第で戻ってくるし、戻らない場合もある。
「例の石は警察が持って行ったんじゃないですか?」
とギャラガが言外に「無駄じゃないですか」を滲ませながら言った。
「あれは宝石じゃないからな。」
とロホは言った。
「故買屋は救急隊員から安く買い叩いた筈だ。高価な石と一緒に置いたりしないだろう。」
彼は棚の中や引き出しを検めていた。ギャラガは気が乗らないらしく、ケツァル少佐に囁いた。
「いつかの弾丸みたいに石を呼べないんですか?」
少佐はチラリと横目で彼を見た。
「石は呼べません。」
とあっさりと答えた。
「そんな芸当が出来ていたら、過去の盗品探しはすごく楽だったでしょうね。」
ギャラガは首を縮めた。
「申し訳ありません。真面目に探します。」
ロホが後ろでクックッと笑った。
2階の故買屋の自宅部分も探したが、石は出て来なかった。いや、見つからなかったのは、紅い石で、透明の水晶の様な、大きさも形も件の石とそっくりな物は見つけたのだ。
「よく似た石ですが、色が違いますね・・・」
と少佐が己の掌に載せて石を眺めた。ロホも眺めた。
「色さえ違わなければそっくりですね。それにこれはそんな邪悪な物を感じません・・・」
と彼が呟いた時、少佐がいきなりその石を床に落とした。まるで女の子が蛙か蜘蛛でも払い落とすような、そんな表情だ。ロホとギャラガは思わず上官の顔を見た。
「どうされました?」
「その石が何か?」
ケツァル少佐は深呼吸した。そして言った。
「この石、私の血を吸おうとしました・・・」
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