2024/06/04

第11部  石の名は     2

 「そうだろうな、吸血する石なんて聞いたこともない。」

 テオは肉入りサラダをモリモリ食べる恋人を眺めながら、自分の携帯を出した。その日のスケジュールを確認した。

「まだ疲れが残っているなら、運転は止めろよ。俺が送って行ってやる。」

 断られるかと思いきや、ケツァル少佐は同意した。

「グラシャス、帰りは貴方の帰宅に合わせるよう努力します。部下達も昨日は歩き回った筈ですから。」
「アンドレは救急隊員を探して走り回っただろうな。ロホはどうなんだい?」
「彼は石を使った呪いが存在するのか、実家の年寄りに訊いてみると言ってました。彼の家の年長者達は結構忙しい人達ですから、家族と雖も簡単に面会出来る訳ではないのです。」

 ロホの実家がブーカ族の旧家、白人の世界で言えば貴族に当たる家系であることは、テオも何度か他の”ヴェルデ・シエロ”達から聞かされていた。宗教的儀式を執り行ったり、一族の人々の相談事に乗ってやったりして尊敬を集めている。古代から政治の方向を決める重要な役割を担ってきた家系だから、現代でも”ヴェルデ・シエロ”達は頼るし、普通の人間”ティエラ”の政治家達も彼等の正体に薄々気づいているのか、相談や頼み事をしに来ると言う。
 ロホはそんな家庭の子供だが、6人兄弟の上から4番目で、後継者として見做されていない。だから自由に生きている。自由だが、秘儀とも言える大切な儀式に関する重要な知識は教えられていない。それ故、どうしても自分が持っている知識では足りないと感じると、親や長兄に頼らなければならない。そして親も長兄も、四男の求めになんでも応じてくれる訳でもない。教えられないことは教えてくれないし、場合によっては「そんなことは”ティエラ”の問題だから、お前は気にしなくて良い」と突き放されることもあるのだ。

「呪いのプロはウリベ教授だったろ? 彼女に訊いてみたのか?」
「スィ。それとなく、石を使った呪いが伝わっている部族はありませんか、と訊いてみました。石を道具として使う儀式はあるそうですが、石そのものに呪いの力を与えることはない、と教授は言ってました。」
「多分、不可能なんだろう、普通は・・・」

 テオはコーヒーにクリームを入れた。

「その石が宇宙生命体だった場合は、吸血するかも知れないな。」
「地球外生命体ですか?」

 少佐がちょっと小馬鹿にした様に笑った。

「セルバに隕石が落ちた話がないか、訊いてみましょうか?」

0 件のコメント:

第11部  太古の血族       2

   泣く子も黙るファルゴ・デ・ムリリョ博士をパシリに使うのか? ギャラガは呆れてアンヘレス・シメネスを見つめた。しかし高校生の少女は臆することなく祖父を見ていた。ムリリョ博士は溜め息をつき、彼女に向かって手を差し出した。アンヘレスは右肩から斜に下げていたポシェットから薬袋を取り...