2024/06/05

第11部  石の名は     3

 人間の生気を吸い取って殺してしまう石像がある。アーバル・スァットと呼ばれるそれは、ネズミに見えたが、実際は古代に作られたジャガー神なのだそうだ。だが生気を吸い取る神様は、物理的に人間の体を弱らせたりしない。血液を吸い取ったりしない。
 テオはそのあたりの神様の祟りの仕組みをよく理解出来ないが、今回の紅い石がアーバル・スァットとは異質の物であると、大統領警護隊文化保護担当部が考えていることはわかった。 
 職場へ向かう車中、ケツァル少佐はたった10分のドライブ中眠っていた。まだ疲れているのだろう。そして眠れる時はできるだけ眠ってしまう軍隊のスキルなのだろう。
 文化・教育省の職員用駐車場に入ると、既にロホとギャラガが来ており、車外で立ち話していた。アスルもいたし、デネロスもいたので、テオはそれだけ話は深刻なのか、と不安になった。車を停めると、彼等が近寄って来た。テオは少佐を下ろしたらすぐ大学へ向かうつもりだったので、車は通路に止めたままだ。

「ブエノス・ディアス!」

と部下達が挨拶して、少佐が目を開けた。

「ブエノス・ディアス。」

 彼女が伸びをしてから、車外に出た。そしてテオに「グラシャス」と言ったので、テオはドアを彼女が閉めるのを待った。しかし彼女はいった。

「私のスペースに車を置いて、オフィスに来て下さい。」

 そして彼の返事を待たずに部下達と共にビルの入り口に向かって歩き去った。
 テオは時計を見て、まだ授業まで2時間あると判断し、言われた通りにした。職員用駐車場は特に誰の場所と書いたものはなかったが、自然に定位置が決まっているのだ。テオは少佐のベンツがいつも停まっている場所に車を入れて、車外に出た。

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