2024/06/05

第11部  石の名は     4

  文化・教育省の4階の大統領警護隊文化保護担当部には「エステベス大佐」と書かれたプレートが付いたドアが一番奥にあり、その中で大統領警護隊達は会議を開く。実際には長机と椅子があるだけの小さな部屋で、モニターもホワイトボードも何もない。
 テオがそこに入ることは滅多にないのだが、その日はデネロスに案内される形で入った。

「遺跡から帰ったのかい?」

と訊くと、「報告の日です」と答えが返ってきた。中間報告をして、必要な物資を調達してまた遺跡に戻るのだ。アスルは近郊の遺跡に毎日通っている形だから、今日はスケジュールをちょっと変更しただけなのだろう。
 ロホとギャラガの昨日の任務は既に”心話”で隊員達は共有していた。だからテオが座るなり、少佐が言葉で簡単に説明した。

「アンドレは紅い石を拾ったと思われた救急隊員を追跡しました。そして彼を見つけたのですが、既に故買屋に売却された後でした。その故買屋はアンドレが居場所を突き止めた時、別件で警察に捕まっていました。アンドレは故買屋の持ち物を探りましたが、石の発見に至っていません。」
「今日はもう一度故買屋の家に行ってみます。」

とギャラガが追加した。

「その救急隊員と故買屋に石は悪さをしなかったのか?」

とテオが尋ねると、ギャラガは首を傾げた。

「2人共元気です。ただ、救急隊員が妙なことを言いました。」

 それは初耳だったらしく、全員が彼に注目した。ギャラガはいった。

「あの男は、紅い石を持っていると、妙に気持ちが良くなった、と言ったのです。」
「気持ちが良くなった?」

とアスル。 想像がつかないので、眉間に皺を寄せて見せた。ギャラガは肩をすくめた。

「”ティアラ”相手に気持ちを感じ取ることは、私には無理なので、どんな気分だったのかわかりません。ただ、その救急隊員は、頭がぼーっとする感じがして、何かおかしいと感じたそうです。恐らく、本能的に危険を感じ取ったのだと思います。」
「勘が鋭い男か、あるいは遠い祖先に一族の血が流れていたのかもな・・・」
「しかし、その頭がぼーっとする感じの原因が、紅い石にあると、その男は判断したのか?」
「あの男はディエゴ・トーレスが極度の貧血状態で倒れているのを実際に見ています。救急隊員ですから、貧血の症状はそれなりにわかったのでしょう。彼は迷信を信じていませんが、石が何か悪い物だと言う感じがしたので、さっさと金に変えようと、知り合いに教わって故買屋へ持って行ったのです。」

 手に持つだけで吸血する石? テオは背筋が寒くなるのを感じた。

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