「石が雨を降らせた?」
テオは驚いて声を上げてしまった。広場の反対側で弁当を食べていた車両工場の従業員達が振り返ったので、彼は慌てて声を顰めた。
「紅い石は雨を降らせる石なのですか?」
「私は詳しくありません。」
とガルソン中尉は予防線を張った。
「言い伝えと言うより、噂話のレベルで聞いてください。オルガ・グランデの北の砂漠地方に住んでいた種族に伝わっていた雨乞いの儀式の話です。」
「ラス・ラグナスはオルガ・グランデの北の砂漠地方にあった遺跡です。」
「そうですか・・・その・・・ラグナスと言うからには、大昔は沼でもありましたか?」
テオはロホを見た。ロホもテオを見た。それからガルソン中尉に向き直った。
「これは別件で私の後輩達がその遺跡に出かけた時に見た、精霊の仕業だ。」
そして相手の目を見た。再び”心話”だ。恐らくマハルダ・デネロスとアンドレ・ギャラガが遺跡で見た往古の農村の”夢”だ。ラス・ラグナスの土地の精霊が2人の”ヴェルデ・シエロ”に見せた大昔の村が栄えた時代の景色だった。芦原と水を湛えた沼と平和な農村の姿。
「おお・・・」とガルソンが溜め息を漏らした。
「精霊が若い隊員にそんな風景を見せてくれたのですか・・・」
「空の神と大地を繋ぐ役割のコンドルの神像の目を盗まれたので、精霊が人に助けを求めたのだと思う。だが、コンドルは人に危害を加えなかった。」
”心話”を使えないテオは”ヴェルデ・シエロ”達がどんな素敵な風景を見たのか、わからなかった。こんな時、ちょっぴり悔しい。
「俺には、コンドルの神様と、血を吸う紅い石が同類とは思えないな。」
と彼は言った。ガルソンも頷いた。
「私も”心話”で見た限り、その石に邪悪なものを感じました。神聖なものとは思えない。」
「それで・・・」
ロホが先ほどの話の続きを催促した。
「中尉が聞いた雨乞いの儀式とは、どんなものなのですか?」
するとガルソン中尉は吐き捨てる様に言った。
「生贄を捧げるのですよ。古代史では珍しくないでしょうが・・・」
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