2024/06/07

第11部  石の名は     6

 「祖父様は忙しくて会ってくださらなかった。父も同じだ。しかし、祖母様が・・・最近は寝てばかりなんだが、私のことは結構可愛がってくださる人で、私が実家に帰ると会いたがる。それで、彼女の部屋に行って、石で人を呪えるかと訊いてみた。」

 ケツァル少佐が身を乗り出した。マレンカ家の大刀自様は知恵と知識の宝庫だ。ロホは申し訳なさそうな顔をした。

「祖母も知らないそうです。ただ、彼女はこう言いました。」

 ロホは祖母の口真似をして、一族の言葉を囁いた。テオは”ヴェルデ・シエロ”の言語を未だに理解出来ないが、知っている単語を一つだけ聞き取った。だから口を出した。

「お祖母さんは、オエステ・ブーカが知っている、と言ったのか?」

 文化保護担当部の隊員達が彼を見た。ちょっと驚いている様子だったので、テオは自分の勘が当たった、と確信した。
 ロホが大きく頷いた。

「スィ! 祖母は西のことは西の連中に訊け、と言ったのです。勿論、西の連中とはマスケゴやカイナではなく、オエステ・ブーカ族のことです。」

 少佐が腕組みした。

「オエステ・ブーカが東海岸から西へ移動したのは遥か遠い昔のことです。ラス・ラグナスはその頃はまだ栄えた村だったと思われます。オエステ・ブーカの先祖が彼等と接触したのかどうか、調べて見る必要がありますね。」
「オエステ・ブーカなら、本部に一人いるだろう?」

 テオは車両部で勤務しているガルソン中尉を頭に浮かべた。少佐も同じ男を思い出した様だ。

「ガルソンは祈祷師の家系ではありません。でも彼は純血種ですから、彼の実家で何か伝わっているかも知れません。或いは彼方の祈祷師を紹介してくれるかも知れません。」
「私はガルソンと親しくありません。」

とロホが残念そうに言った。 ”ヴェルデ・シエロ”の習慣で初見は誰かの紹介があった方がスムーズにことが運ぶのだ。少佐がテオを見たので、テオは頷いた。

「俺がガルソンに顔を繋ぐ。彼も故郷の話をするのは嫌いじゃないらしいから。」

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