結局ブリサ・フレータ少尉がカロリス・キロス中佐とガルソン中尉の妻マハと出会ったのは翌週の金曜日の午後だった。研修日程を全部終えて、参加隊員達に3時間の自由時間が与えられたのだ。すっかりグラダ・シティの生活に馴染んだマハが夫名義で買った中古車で中佐を乗せて本部の通用門へフレータを迎えに行った。そして3人はその足で中佐の昔馴染みの経営するカフェで午後をお喋りで過ごした。中佐は改めて己の不祥事で部下達を巻き込んでしまったことを詫び、フレータとマハは彼女を励ました。
「私はあのままだったら一生体験出来なかったであろう都会暮らしを楽しんでいます。子供達も上の学校に進めて、感謝しています。」
とマハは言い、さらに付け加えた。
「夫も、こんなことを申してはなんですが、太平洋警備室にいた頃より生き生きしています。」
フレータも頷いた。
「国境の警備は忙しいですが、とても楽しいですよ。毎日色々な変わった物を見られるし、友達も大勢出来ました。中佐が私達に謝ることは何もありません。」
マハが北部国境へ転属になったパエス少尉の家族にも触れた。
「パエスの家の人々も幸せそうです。たまに電話でテジャ(パエスの妻)と話しますが、今まで知らなかったことを色々体験出来て子供達がのびのびしているそうです。パエス少尉も転属当初は沈んでいたそうですが、今はすっかり別人で率先して陸軍警備班の指揮を執ることもあるそうです。」
キロス中佐は静かに微笑んだ。彼女は己の短絡的な行動が招いた混乱を理解しており、それが部下達の人生を変えてしまったことも承知していた。罪を犯してしまった2人の男達にも申し訳ないと思っていたが、それはこの場では言わなかった。
「貴女達が今幸せなのを知って、私も嬉しいです。これからも友達でいてくださいね。」
「勿論です!」
「グラシャス、中佐!」
やがてあっという間に時間が過ぎて、3人は店を出た。車のそばに、テオが立っていた。彼を最初に認めたフレータが、2人の女性に彼を紹介した。
「私達を助けてくれたドクトル・アルストです。」
テオとキロス中佐、マハ・アカチャス(アカチャ族はアカチャス姓しかなかった)・ガルソンは殆ど初対面だったので、挨拶した。キロス中佐は彼の人生も変えてしまったことを謝罪しようとしたが、テオはそれを遮った。
「俺は今本当に幸せなんです、中佐。あの事故で俺の人生は180度変わってしまい、本当の人間らしい生活を手に入れました。グラシャス!」
”ヴェルデ・シエロ”らしくなく、中佐は彼と固く握手を交わした。
マハとは初対面だったが、彼女は夫からテオのことを何度も聞いていて、
「我が家のヒーローですよ。」
と言って彼を照れさせたのだった。
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