2024/07/06

第11部  石の目的      5

  テオはガルソン中尉にメールを送ってみた。フレータ少尉は男女の間であるし、不祥事で左遷された者同士と言うこともあって直接連絡を取ることを躊躇っていたのだ。

ーー来週ブリサ・フレータ少尉が本部研修でグラダ・シティに来ます。彼女は貴方とキロス中佐と会ってみたいと希望していますが、ご都合はいかがですか?

 返事は、正にテオが夕食の席でケツァル少佐にそのことを話している最中に送信されて来た。

ーー来週は月曜日の夜しか空きがありません。私は本部で彼女と会えると思います。中佐との面会は、私の妻に頼みます。妻はフレータと親しくしていたので、喜ぶと思います。

 ガルソン中尉の妻は”ティエラ”で普通の人間だ。夫や自分が産んだ子供達が”ヴェルデ・シエロ”だなんて知らない筈だった。しかし、フレータ少尉はそんな彼女やサン・セレスト村の住民達と10年以上付き合って来たのだ。キロス中佐はもっと長くあの村にいたし、今は普通の人間の子供達の教育も行っている。心配することは何もない。
 テオはガルソン中尉に理解したと返信した。ケツァル少佐が言った。

「いっそのこと、貴方も面会を遠慮してはいかがです?」
「俺は駄目なのか?」
「女性の集まりの方が、フレータも中佐も気が楽でしょう?」

 それもそうかも知れない。テオは今度こそキロス中佐と話が出来ると期待していたが、我慢することにした。ガルソン中尉が休みをもらったら、その時に中佐に紹介してもらえれば良いのだ。
 午後9時すぎにフレータ少尉に電話すると、彼女はあっさり納得した。

ーー現役は時間調整が難しいですからね。私も研修中に長時間外出出来ませんから、ガルソン中尉と時間を合わせるのは難しいだろうと予想はしていました。キロス中佐とは連絡が取れているので、マハ・・・あ、中尉の奥さんです、マハを誘って頂けるようお願いしておきます。恐らく、中尉よりマハとの方が話すことが多いと思います。

 ケツァル少佐の読み通り、彼女は楽しげに喋って、通話を終えた。
 テオが電話をポケットにしまうと、一緒にテレビを見ていた少佐が、何かを思い出したように言った。

「フレータはカイナ族でしたね?」
「スィ。 純血種だ。」
「カイナ族は混血が進んでいる部族です。純血でいると言うことは、彼女は部族の中でもかなり由緒ある家系の人ですよ。」

 テオと少佐は顔を見合わせた。

「旧家ってことは・・・」
「サンキフエラの心臓に関する言い伝えを彼女は知っているかも知れませんね。」



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第11部  太古の血族       5

  その夜、久しぶりに大統領警護隊文化保護担当部は全員揃ってケツァル少佐のアパートで夕食を取った。勿論テオも一緒だ。和やかに世間話をしながら食事をして、いつもの時間に家政婦のカーラが帰ってしまうと、急にその場の雰囲気が変わった。会食の本来の目的が始まるとみんなが感じたからだ。  ...