2024/07/12

第11部  石の目的      7

  テオがブリサ・フレータ少尉にちょっと尋ねたいことがあると言うと、マハ・アカチャ・ガルソンがキロス中佐を自分の車で送って行くので、テオにフレータを本部まで送って欲しいと言った。テオが承諾すると、フレータは中佐とマハにハグで挨拶を交わし、再会を約束して別れた。

「中佐ともっと話したいことがあったんじゃないですか?」

とテオが車に乗り込んでから、フレータに言うと、彼女は首を振った。

「大丈夫、”心話”で話せましたし、本当にお互いが元気なことを確かめ合う会合でしたから、気になさらずに。」

 そして彼女の方から質問した。

「私にお聞きになりたいこととは、何ですか?」

 テオは車を通りの交通の流れに乗せてから言った。

「大したことじゃないんですが、最近珍しい石が文化保護担当部で採取されて、今大統領警護隊の本部に収められているんです。」
「珍しい石?」
「スィ、”サンキフエラの心臓” と呼ばれているそうです。」

 フレータは目をパチクリさせた。

「それって・・・」

とちょっと驚いた風に言った。

「伝説の石ですよ。」
「伝説ですか?」
「カイナ族の伝説で、人の血を吸わせて病を治す石です。」
「確かに、カイナ族が昔作ったと聞きました。」
「本当にあったのですか?」
「あったんです。 ”ティエラ”の男性が砂漠で拾って、手に握っていると心地良いと感じ、手放せなくなって血を沢山吸い取られ、危うく命を落とすところでした。幸い一命を取り止めましたが。 石は文化保護担当部が回収し、本部に届けました。」
「あれは使い方を知らなければ、命を失うのです。」

とフレータは言った。

「勿論、伝説として私は聞いているので、本当のことだと思っていませんでしたが・・・」
「本来はどんな目的だったのですか? 一個の石で人々の病を治して神の力を示していたのだとしたら、ひどく効率が悪いような気がしますが・・・」
「伝説ですから、はっきりしたことは知りませんが・・・」

 フレータ少尉はちょっと考えてから言った。

「元は病ではなく、毒を吸い出す物だった筈です。」
「毒を吸い出す?」
「スィ。カイナ族の配下にあった部族の神官や族長が敵に毒を盛られた場合に、石に血と毒を吸わせて助けるためのもので、庶民を守るものではありませんでした。ですから、庶民は石の噂を聞いて、病を治す物だと思い込んだのでしょう。実際に治療に使われたのではないのです。カイナ族の権力闘争の中で、石は行方不明になり、作る技術も失われたのです。古代に失われた技術は、伝説の中で語られますが、もう現実に使われることはありません。呪文や気の出し方が全く不明ですからね。」

 旧家の娘らしく、フレータは古代の言い伝えを教えられて育っていたのだ。

「では、本部は何のためにあの石を保管するのでしょう?」
「お偉方の考えは分かりませんが・・・」

 フレータ少尉は額に小さく皺を刻んだ。

「予防策ではないですか?」
「予防策?」
「近日に大統領主催のガーデンパーティーがあるでしょう? もし何か起きた時のための救急処置用に準備しているのだと思います。」


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第11部  石の目的      30

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