2024/07/24

第11部  石の目的      9

  その夜、ケツァル少佐からはムリリョ博士の話題が出なかったので、テオも忘れていた。雨季が始まり、蒸し暑い夜だった。2人が住んでいるコンドミニアムは西サン・ペドロ通りの坂道を登りきった高台にあり、しかも最上階だったので、いつもは窓を開け放って寝るのだが、その夜は雨が降り出したので窓を閉めてエアコンを点けた。シーリングファンが気怠く回る下に、テオはベッドを置いて寝ていた。珍しくケツァル少佐が彼のベッドに来て隣に寝ていた。結婚前なので、刺激が強過ぎるのだが、彼女が平気で裸になって横に並んだので、テオも上だけ脱いで横たわった。少佐はすぐに寝落ちしてしまった。誘うでなく、拒否するでなく、テオにとっては生殺しの様な状態だ。

 眠れないじゃないか・・・

 多分、彼女は彼が触っても怒らない。しかし彼女の方から誘って来ないから・・・いや、この状態は誘っているのではないか? テオはそっと彼女の体に手をかけ、自分に引き寄せた。彼女は無抵抗だ。これはO Kなのか? テオは自分に都合良く解釈して彼女にキスをした。そして手を・・・
 突然ベッドサイドのテーブルに載せた少佐の携帯電話が鳴った。彼が手を引っ込めるや否や少佐が飛び起きて携帯を掴んだ。

「オーラ?」

 彼女が呼びかけると、電話の向こうで誰かの甲高い声が捲し立てた。テオは脱力してその声をぼんやりと聞いていた。少佐は黙って相手の喋りを聞いていたが、やがて、

「わかりました。」

と言った。

「その石は祭壇に置いてください。手を触れないこと。長老会の人で連絡がつく人がいればすぐ来てもらってください。私もこれからそちらへ向かいます。」

 通話を終えると、彼女はベッドから出て、服を着始めた。テオはベッドに横になったまま尋ねた。

「あの石が何か悪さをしたのか?」
「石は悪くありません。」

と少佐は言った。

「大統領府でちょっと問題が発生して、その解決に石を使おうと持ち出した人がいたのです。でも正い使い方を知らなかったので、別の問題が発生しました。」

 テオは体を起こした。

「大統領府ってことは、”ティエラ”の血を石が吸ったってことだな?」
「今ここで説明している暇はありません。私も詳細を知らないので。兎に角、出かけて来ます。」
「部下も行くのか?」
「神殿の神官がいれば、人数は必要ありません。」

 少佐はそこで溜め息をついた。

「その神官全員が外出中なのです。」


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第11部  石の目的      29

 「遠い祖先にグラダがいるかどうかなんて、D N A分析でもしなけりゃ、わからないだろう。」 とテオは断じた。 「それに純血種のブーカと名乗っていても、実際はグラダの因子を持っていたかも知れない。」  ケツァル少佐がステファン大尉に尋ねた。 「アイオラ少尉はグラダの子孫を見分ける...