2024/07/25

第11部  石の目的      10

  テオは時計を見た。午前1時前だ。彼は起き上がった。

「俺が車を運転する。」
「貴方は休んでいて・・・」
「いや、気になって眠れないだろう。どうせ俺は本部や神殿には入れないから、車内で寝る。」

 素早く服を着て、2人で駐車場へ降りた。”ヴェルデ・シエロ”はエレベーターの利用を好まないが、ケツァル少佐は急ぎの時はこだわらない。エレベーターを出て車に向かいながら、誰かに電話をかけた。彼女が「承知しました」と言うのを聞いて、上官にかけたのだとわかった。
 車に乗り込むと、テオは静かに道路に出た。少佐がやっと先刻の電話の内容を教えてくれた。

「大統領府の厨房でパーティーに出す料理の予行演習をしていたそうです。料理人の顔ぶれは昔からの人々で政権が変わってもスタッフは同じでした。彼等は作った料理を当然ながら試食しました。そして10人中6人が倒れたのです。」

 え?!とテオは運転しながら声を上げた。

「毒か?」
「わかりません。担当警備班は連絡を受けると直ちに厨房を封鎖し、病人を病院に搬送しました。今夜の司令部の担当はトーコ中佐で、中佐は報告を受けた時、すぐに神殿に連絡しました。彼は"サンキフエラの心臓”に言及しなかったのですが、何故か現場に駆けつけた警備班の隊員の一人があの石を持っており、倒れた一人の厨房スタッフの体に石を当てたそうです。石は本来の働きをして、血と共に毒を吸い出したのですが、使った隊員はそれを他の病人にも使おうとしました。」
「複数の人間にはあの石は使えないのか?」
「私にはわかりません。トーコ中佐が仰るには、吸い取った血と毒が浄化されていないのに次の病人に使ったので、4人目で石は飽和状態になって、5人目の時に豪雨になりました。」

 テオはドキッとした。そう言えば、彼等は雨の中を大統領警護隊本部に向かっていたのだ。

「毒が何の毒なのか、まだわかりません。石を使ってしまったら、手がかりが失われることにもなりかねません。」
「倒れた6人中4人は毒を吸い出してもらえたんだろ?」
「でも完璧とは言えないでしょう。それに・・・」

 少佐が憂の表情で呟いた。

「何故警備班の隊員があの石の存在と役割を知っていて、しかも持ち出せたのか・・・」


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第11部  石の目的      27

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