2024/07/29

第11部  石の目的      11

 大統領警護隊本部の通用門で、テオの車は足止めされた。ケツァル少佐だけが降りて中に入ることを許された。テオは、帰りは電話をかけてくれと彼女に言い、車を市役所の駐車場へ走らせた。駐車違反で咎められずに長時間居座ることが出来るのは、そこが一番本部から近い場所だったからだ。
 駐車場の端っこに車を停めて座席の背もたれを倒し、暫く目を閉じると、少し眠ることが出来た。両足は行儀悪いがハンドルの上だ。
 目が覚めたのは、車の窓を誰かがノックしたからだ。目を開くと、窓の外から中を覗き込んでいる人物がいた。暗くて誰だかわからないが、テオはギョッとして足をハンドルから下ろした。相手は窓から離れ、彼が落ち着くのを待った。
 テオは車の窓を開けずに相手を見つめた。するとその人物はさらに車から離れ、彼に外に出るよう手を振って招いた。体格からして男性だった。細身で背が高い。テオは用心深く車のドアを開けた。

「休んでいる邪魔をして申し訳ない。」

と若い男性の声が言った。

「貴方は、グラダ大学のテオドール・アルスト・ゴンザレス准教授ではないかな?」
「スィ。そう言う貴方は?」

 男性は体の向きを少し変えて、顔に近くの街灯の灯りが当たるようにした。若い先住民だ。

「私は、ウイノカ・マレンカ、アルファットの兄です。」
「ああ・・・」

 テオはびっくりした。車から出たのは、相手を信用したと言うより、思いがけない出会いに驚いたからだ。

「ロホの・・・失礼、マルティネス大尉のお兄さんですか。」

 相手はちょっと微笑んだように思えた。

「弟は色々な呼び名を持っているので、貴方のお好きな名を使ってくれて結構。」
「では・・・ロホと呼ばせて頂きます。」

 ロホは6人兄弟の4番目で、3人の兄がいる。そのどの兄がこのウイノカと名乗った人なのか、テオは分からなかった。ロホは家族の詳細を友人に語らないのだ。

「ロホのお兄さんが、この俺にどのようなご用件でしょうか?」

 

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第11部  石の目的      29

 「遠い祖先にグラダがいるかどうかなんて、D N A分析でもしなけりゃ、わからないだろう。」 とテオは断じた。 「それに純血種のブーカと名乗っていても、実際はグラダの因子を持っていたかも知れない。」  ケツァル少佐がステファン大尉に尋ねた。 「アイオラ少尉はグラダの子孫を見分ける...