大統領警護隊本部の通用門で、テオの車は足止めされた。ケツァル少佐だけが降りて中に入ることを許された。テオは、帰りは電話をかけてくれと彼女に言い、車を市役所の駐車場へ走らせた。駐車違反で咎められずに長時間居座ることが出来るのは、そこが一番本部から近い場所だったからだ。
駐車場の端っこに車を停めて座席の背もたれを倒し、暫く目を閉じると、少し眠ることが出来た。両足は行儀悪いがハンドルの上だ。
目が覚めたのは、車の窓を誰かがノックしたからだ。目を開くと、窓の外から中を覗き込んでいる人物がいた。暗くて誰だかわからないが、テオはギョッとして足をハンドルから下ろした。相手は窓から離れ、彼が落ち着くのを待った。
テオは車の窓を開けずに相手を見つめた。するとその人物はさらに車から離れ、彼に外に出るよう手を振って招いた。体格からして男性だった。細身で背が高い。テオは用心深く車のドアを開けた。
「休んでいる邪魔をして申し訳ない。」
と若い男性の声が言った。
「貴方は、グラダ大学のテオドール・アルスト・ゴンザレス准教授ではないかな?」
「スィ。そう言う貴方は?」
男性は体の向きを少し変えて、顔に近くの街灯の灯りが当たるようにした。若い先住民だ。
「私は、ウイノカ・マレンカ、アルファットの兄です。」
「ああ・・・」
テオはびっくりした。車から出たのは、相手を信用したと言うより、思いがけない出会いに驚いたからだ。
「ロホの・・・失礼、マルティネス大尉のお兄さんですか。」
相手はちょっと微笑んだように思えた。
「弟は色々な呼び名を持っているので、貴方のお好きな名を使ってくれて結構。」
「では・・・ロホと呼ばせて頂きます。」
ロホは6人兄弟の4番目で、3人の兄がいる。そのどの兄がこのウイノカと名乗った人なのか、テオは分からなかった。ロホは家族の詳細を友人に語らないのだ。
「ロホのお兄さんが、この俺にどのようなご用件でしょうか?」
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