ウイノカ・マレンカは肩から小さなポシェットの様な物を下げていたが、その中に片手を入れ、小さな小瓶を2つ掴み出した。
「これの遺伝子分析をして頂きたい。」
テオは小瓶とウイノカを交互に見た。いきなりの仕事の依頼だ。真夜中に、市役所の駐車場で、しかもテオはそこにいるなんて誰にも教えていない。ケツァル少佐だって知らない筈だ。
「これは何か聞いて良いですか? 教えて頂けなければ、俺は分析しません。」
「その言葉はごもっともです。」
とウイノカは穏やかに言った。まるでロホと喋っているようだ。マレンカ家の人々は皆こんな感じなのだろうか?
ウイノカはテオに数歩近づき、小瓶をよく見えるように差し出した。
「左側の濁った液体は、今日、大統領府で倒れた料理人の嘔吐物です。」
テオは思わずウイノカを見た。何故そんなものを、この男が持っているのか?
ウイノカ・マレンカは続けた。
「右側は同じ人物から採取した皮膚片で、本人の了承を得ています。」
本当に了承を得たのかどうかわかるものか、とテオは何故か反発心で思った。 ”ヴェルデ・シエロ”は相手の心を支配出来る力を持っているのだ。
「同一人物のものを2種類持って来られた理由は推察出来ます。遺伝子を比較して、異物の遺伝子だけを探せて言うのですね?」
「その通りです。恐らく、生物由来の毒が嘔吐物に入っていると思うのです。」
「その生物の正体を探れと?」
「正体は推測出来ます。それがどこで採れた物か知りたい。」
ウイノカ・マレンカはさらにテオに近づいた。もう暗がりでも顔が見えた。ロホに似ているが、ちょっと目つきがきつい。
「事件のことは貴方はご存知だと思います。ケツァルと一緒に本部まで来られましたから。だから、私が何故こんな形で貴方と接触しているかを説明しましょう。」
ウイノカ・マレンカは周囲を見回した。そして胸ポケットからパスケースを出して中の物を見せた。
「え?!」
テオは緑色に光る鳥の徽章を見て驚いた。
「貴方も大統領警護隊なのですか?」
ウイノカが微かに笑った。
「弟には内緒にしてください。私は、隊員の殆どが存在を知らない部署に所属しています、神殿近衛兵です。」
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