「秘密の部署ですか? そんな重要なことを、どうして白人の俺に教えるのです?」
テオは用心深くなっていた。目の前の男が本当にロホの兄なのか確信が持てない。大統領警護隊の徽章は本物だろうが、ロホが身内に隊員がいると知らないなんて信じられなかった。
ウイノカ・マレンカは辛抱強く説明した。
「初めのうちは、事件を隠して分析だけを貴方に依頼するつもりで、通用門まで行きました。そこへ貴方がケツァル少佐と共にやって来た。恐らく貴方は事件について何か彼女から聞いているだろうと推測したのです。彼女を降ろして貴方がすぐに行ってしまったので、急いで後を追いかけ、探したのです。」
彼はチラッと後ろを振り返った、テオは暗がりの芝生の上に自転車が倒して置かれているのを見た。弟が中古のビートルで、兄が自転車なのか。夜の街に走り去った車を探して、この男は自転車で走り回ったのだ。
「秘密の部署の貴方が、秘密の依頼を俺に持って来られた理由を聞かせてもらえますか?」
ウイノカが溜め息をついた。
「大統領府の厨房で料理人達が毒の入った料理を試食して倒れたことは聞かれましたね?」
「スィ。 10人中6人が倒れたと聞きました。」
「残りの4人も軽症ですが、毒を口にしてしまいました。ですから、厨房スタッフは全員明日から仕事が出来ません。」
「では、スタッフの入れ替えが必要ですね?」
「スィ。取り敢えず、大統領警護隊の厨房スタッフが臨時で働きます。大統領府側が代替要員を確保する迄の期限ですが、問題はもうすぐ大統領府でガーデンパーティが開かれることです。」
「あー、それは・・・不慣れなスタッフや外部からのケータリングを利用するのはマズいでしょうね。」
「この様な事態は以前にもあったので、それは問題ではありません。」
とウイノカは言った。
「問題は、この様な事態が起きることを、予想していた人間がいたことです。」
テオはそこでケツァル少佐が電話で呼び出された理由を思い出した。
「”サンキフエラの心臓”とか言う石を、警備班の隊員が使ったことですか?」
「スィ。」
ウイノカが重々しく頷いた。
「あの石はケツァルが回収して神官に提出しました。神官はあの石を宝物蔵に納めた筈です。それなのに、一介の警備班隊員が持っていた。そして素早く救護に使用したのです。」
「宝物蔵ってぇのは、誰でも近づける場所ではないのでしょうね?」
「勿論です。近衛兵立ち会いで神官自らが鍵の開け閉めをします。神官以外の人間は鍵を使えません。巫女達も使えないのです。」
「では、神官が何人いるのか知りませんが、誰かが石を無断で蔵から出して、警備隊員に渡していた・・・」
「件の警備隊員は現在司令部内部調査班によって調べを受けています。いずれどの神官に指示されたのか告白するでしょうが・・・現在神官全員がある場所に出かけており、連絡を取ることが許されていません。神官に直接確認する前に、どの神官がこの事態を引き起こしたのか、知りたいのです。」
「ちょっと待って・・・」
テオは何か恐ろしいことをウイノカ・マレンカが考えている予感がした。
「貴方は、今回の毒の事件は神官によって起こされたとお考えですか?」
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