「神官がこの国の政治についてどんな考えを持っているのか、直近で仕えている我々にも見当がつきません。」
ウイノカ・マレンカは大統領府がある方角を見た。そちらには当然”曙のピラミッド”も大統領警護隊本部もある。
「彼等は普段国政に口出しをしないように見えます。実際に政治家達に影響を及ぼすのは長老会です。しかし神殿は長老会の上に位置しており、神官の考え、と言うか、彼等の言葉を借りれば、神託が絶対なのです。今回の事件を事前に知っていたのであれば、阻止を大統領警護隊に命じるのが神官の本来のあり方です。しかし彼等、もしくは誰かが、それを知っていながら放置し、対処法を一人の警備隊員だけに伝えていた。」
テオも己を考えを口に出した。
「知っていたのではなく、神官の誰かが起こした、と言うことですか?」
「恐らく・・・しかしその目的がわかりません。厨房スタッフを入れ替えるのが目的なのか・・・」
「或いは・・・」
テオは馬鹿な考えだと思いつつも、頭に浮かんだことを言った。
「”サンキフエラの心臓”の効力を試した、とか・・・」
ウイノカが彼を振り返った。
「あの石を試した・・・?」
「俺が今思いついたことを言っただけです。」
ふむ、とウイノカが片手を顎に当てた。
「試すと言うことは、あれを使わねばならないことが起きる可能性がある、と誰かが考えたのか?」
陰謀の匂い。テオは手をウイノカに差し出した。
「その瓶の中身を分析しましょう。生物由来の毒なら、遺伝子で正体と産地を探してみます。」
ウイノカが彼の手に小さな瓶を2つ、置いた。
「私とここで話したことはくれぐれも他人に語らぬよう願います。神官の耳に入れたくありませんし、貴方自身も危険に曝されます。」
「承知しています。ケツァル少佐にもロホにも話しません。」
テオは慎重に小瓶をポケットに入れた。車に入ったら、すぐに鞄に移し替えよう。
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