ケツァル少佐がテオの電話に迎えを求めて来たのは1時間後だった。ウイノカ・マレンカは既に自転車で走り去っており、テオは車内でウトウトしかけていた。電話で目が覚めると、大きく伸びをして、鞄の中の小瓶の存在を確認してから、大統領警護隊本部の通用門前へ行った。少佐は既に門の外で待っていて、車が停まると素早く助手席に乗り込んで来た。
「早く帰って寝ましょう。」
と催促した。テオが車を出すと、彼女が言った。
「誰かが嘘をついています。或いは情報が複雑になっている感じです。」
「誰が何を言ったんだ?」
それで、彼女は整理してみた。
「アスマ神官は、”サンキフエラの心臓”はカイナ族が支配していた”ティエラ”の求めに応じて病を癒す目的で作った石だと言いました。 祈祷師が住民の病を石で治療していたのだ、と。」
テオも語った。
「カイナ族のブリサ・フレータ少尉は、あの石はカイナ族の支配下の祈祷師や族長の為のもので、敵に毒を盛られた時に使われた、庶民のためのものではなかった、と言った。 庶民には、病を治す力がある石の存在が知られていたが、1個しかない石を大勢の治療に使うことはしなかった、と。」
少佐が暗がりの中だったのでどんな表情をしたのか、テオには見えなかったが、きっと愉快な気分の時の顔ではなかっただろう。
「フレータ少尉は当事者の子孫で、彼女が聞いた言い伝えが正しいのでしょう。アスマ神官はカイナ族出身の神官からの又聞きです。現在神官の中にカイナ族が何人いるかわかりませんが、あの石を実際に見たのは、今回が初めてだった筈です。だから使い方を知っている神官はいなかったのです。」
「それじゃ、カイナ族の神官があの石の効力と使い方を試したって?」
「石を使うのに呪文が必要なのか、石はどの程度治療効果を持つのか、浄化はどの様に行うのか、試したと思います。」
「実際の人間の体を使って?」
「スィ! 厨房スタッフを犠牲にして・・・」
許せない、とテオは感じた。これは”ヴェルデ・シエロ”の驕りだ。
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