2024/08/02

第11部  石の目的      16

  テオは翌日、ウイノカ・マレンカから託された物質の分析を行なった。そして抽出出来たD N Aから植物のカロライナジャスミンを検出した。常緑蔓生灌木で蔓は 6 m 、葉は対生で、光沢のある長披針形。暗緑色で長さ 5 ~ 10 cm 、幅 2~3 cm で波状縁をもつ。寒くなると、葉は紅葉する。花は筒状、先端 5 裂平開で、径 1 ~ 3 cm 、暗黄色をつけ芳香がある。庭木としても栽培されるもので、珍しくはないが、毒として用いられることはあまりない。毒成分はゲルセミン、ゲルセミシン、センペルビリンなどのインドールアルカロイドで、毒性は、中枢神経に作用し、特に呼吸中枢に対する直接作用であって、迷走神経には作用しない。また、心臓の機能に影響を与えることもない。末梢血管への作用も認められない。つまり、服毒した人間が死ぬことがないように、軽く悪戯した程度に入れたのだ。
 料理を試食した厨房スタッフ全員、と聞いたが、恐らく料理ではなく、スタッフ達が休憩の時に口にした飲み物に入れていたのだろう。テオは食品サンプルも欲しかったが、それは誰も気が付かなかったのか、もらえなかった。と言うより、大統領警護隊は既に毒の正体は突き止めていて、テオに求めたのはその毒を持つ植物の出身地なのだ。
 テオは植物学の教授を訪ね、カロライナジャスミンの分布がわかるかどうか訊いてみた。

「園芸種だったら、場所の特定は無理ですね。」

と言われた。

「野生種はこの国にありますか?」
「セルバ固有の亜種はあるが・・・」

 植物学の教授は自分のパソコンで検索した。そして2ヶ所の村の名前を出した。

「特に珍しい形状ではないし、見た目はその辺の園芸種と変わらないので、あまり注目していないんだ。ただ、ちょっと毒性は園芸種よりきついかな。原種は絶滅寸前なので、グラダ・シティ市立植物園で栽培しているものだけだ。現地ではもう存在しない。」

 テオは村の名前と植物園を記録して己の研究室に帰った。村はどちらも北部の内陸部で国境線に近い。調べてみたが、これと言った産業もなく、片方は既に廃村になっており、もう片方は隣の町に行政的に合併吸収されていた。農業の村だが、園芸種の植物ではなくトウモロコシを栽培していた。
 テオはまず市立植物園に出かけた。

0 件のコメント:

第11部  石の目的      30

  「神官と言うのは、どうすればなれるんだい?」  テオが質問すると、ケツァル少佐とステファン大尉は顔を見合わせた。2人ともよく知らないんじゃないか、とテオはふと思った。 ”ヴェルデ・シエロ”社会は秘密主義が多い。一族の中でも知らないことの方が多いようだ。ましてや、この姉弟はそれ...