2024/08/08

第11部  石の目的      19

 「あのカダイ師に毒薬のことを訊いてみたいんだ。」

 ケツァル少佐が怪訝そうな顔でテオを見た。

「あの人はスペイン語を話しませんよ。」
「通訳してもらえないかな?」
「出来ないことはありませんが、貴方は今回の毒のことで何か知っているんですか?」

 テオは全く部外者の筈だった。大統領警護隊本部や大統領府で起きた事件を知る立場にいないのだ。彼は返答に困った。

「いや・・・警戒厳重な大統領府の厨房で毒を仕込んだ人間がいるってことに衝撃を受けてさ・・・使った毒が分かれば、犯人もわかるんじゃないかと・・・」

 服の下で汗が出た。

「カダイ師は全くの民間療法士です。古式に則った方法で治療しているだけです。薬剤師ではないし、毒の専門家でもありません。」
「だが、大統領警護隊は、専門知識を持っている人間を捜査しているんだろ? 案外民間療法士の方がヒントを持っているかも知れないぞ。」

 するとデネロスが天井に目を向けて囁いた。

「犯人はそう言う人から毒を買った可能性もありますね。」

 少佐が溜め息をついた。

「それなら捜査範囲が際限なく広がってしまいます。」
「厨房スタッフしか事件当日厨房に入っていなかったのだとしたら、そのスタッフが行きそうな店を探したら良いんだ。毒が入っていたクラマトは手作りだったんだろ?」
「それが、外部からの差し入れだった様です。」
「差し入れ?」
「厨房には食材の納入業者達が色々持ち込みます。事件前日はコーラの差し入れがあり、事件当日はクラマトが置かれていたそうです。誰が持ち込んだのか、捜査中ですが、どの業者もそんな差し入れをした覚えはないと言っているそうです。」

 デネロスがチラッとテオを見てから、少佐に向き直った。

「私、カダイ師の美容液の評判を聞いたことがあります。正直、ちょっと興味があるので、お店に行ってみたいです。場所を教えてくだされば、私とドクトルで明日にでも行ってみますけど?」


0 件のコメント:

第11部  石の目的      30

  「神官と言うのは、どうすればなれるんだい?」  テオが質問すると、ケツァル少佐とステファン大尉は顔を見合わせた。2人ともよく知らないんじゃないか、とテオはふと思った。 ”ヴェルデ・シエロ”社会は秘密主義が多い。一族の中でも知らないことの方が多いようだ。ましてや、この姉弟はそれ...