ケツァル少佐は、異母弟カルロ・ステファン大尉がルーク・アイオラ少尉から持ちかけられた相談を、文化保護担当部の部下達にあっさりと打ち明けた。それは彼女が部下達を信頼・信用しているからだ。彼等は他の情報源から「口外するな」と言われて得た情報を、この仲間内ではあっさり喋ってしまう。しかしその逆は有り得なかった。
「グラダを祖先に持つ5歳未満の男の子?」
とロホが憂を目に湛えて呟いた。彼は当然ながらケサダ教授の家族の秘密を知っているのだ。アスルは誰からも打ち明けられたことはないが、場の雰囲気から察していた。恩師は只者ではない、と。だからその家族も只者ではない。
「あの家族はマスケゴ族だ。」
とアスルは言った。
「そうじゃなければならない。もしマスケゴでないなら、教授も、博士も博士の家族も一族に嘘をついてきたと見做されて粛清される。」
「だから、我々はあの家族のことは一切考えるな。」
とロホが後輩達に命令口調で言った。全員が頷いた。
それなら・・・
「どうやって遠い先祖にグラダがいる人間を探し出すんだ?」
とテオが言うと、彼等は逆に彼を見た。
「遺伝子の分析はどの程度まで進んでいるんですか?」
とギャラガ少尉が尋ねた。ケツァル少佐もじっと彼を見つめていた。
テオは覚悟を決めた。
「実は、かなり進んでいるんだ。君たちに報告しなかったのは、実証が難しいからで、俺の計算や理論では、どの因子が”ヴェルデ・シエロ”であるか決定するものであるか、どれが部族の特徴を決定づけるのか、大体わかって来ている。
ただ、普段言っている通り、サンプルになる人間が少ないので、統計的な証明も出来ないし、実際に受精卵から人間になるまでの過程を観察することも出来ない。
だから、今生まれている子供達を検査するしかグラダ因子を持つ人を見つけることは出来ない。」
するとデネロス少尉がぼそっと呟いた。
「物心つかない子供を親から引き離して修行させるなんて、私は反対だな・・・」
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