階段を10段ほど上り切った所は細長いウッドデッキになっていて、大きな掃き出し窓のような開口部が家の壁についていた。昔は木造のドアでも付いていたのか知れないが、現代らしくガラス戸で目一杯開けてあった。そして風通しが良さそうな簾の様なカーテンが垂れていた。
正面のドアが開いて、若い男性が出て来た。ロホに似ていたが、ウイノカ・マレンカにも似ており、ロホよりは身長が低かった。服装は襟付きの涼しそうな薄手のシャツに、ベージュ色のコットンパンツだった。足はクロックスを履いていた。
ロホは右手を左胸に当てて、頭を下げ、挨拶した。
「大統領警護隊大尉として来ました。年上の方々のお話を伺いたく思います。」
男性は頷き、それから視線をテオに向けた。ロホが顔を上げてから、紹介した。
「セルバ国立大学生物学部遺伝子工学科の准教授、テオドール・アルスト・ゴンザレスです。」
そしてテオに向かって言った。
「私の3番目の兄、テイサ・マレンカです。マレンカ家の農園の支配人をしています。」
テオも右手を左胸に当てて頭を下げた。
「テオドール・アルスト・ゴンザレスです。アルストと呼んで下さい。」
「ドクトル・アルストです。」
とロホが急いで補足した。肩書きが必要な要件なのだ。ただの「白人のお友達」ではない、と暗に仄めかした。
テイサは頷いた。
「アルファットのすぐ上の兄、テイサです。セルバ大学で農学を学んでいます。ドクトルのお噂はかねがね耳にしていました。お会い出来て光栄です。」
手を差し出して来たので、テオはびっくりした。 ”ヴェルデ・シエロ”を含むセルバの先住民は握手をする習慣がない。だから現代でもビジネスで必要な場合を除いて、彼等は滅多に自分から手を差し出さない。手を差し出すのは、歓迎の意思表示だった。
テオは愛想良い笑みを浮かべて握手に応じた。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。どちらの研究室ですか?」
「ファルケ教授の研究室です。」
「では、植物ですね? 確か・・・蘭を中心にした研究だったかと・・・」
「スィ、ラン科の植物から環境問題を解決出来る酵素の可能性を探っています。」
ロホが咳払いした。研究の話をしに来たのではないのだ。兄が口を閉じると、彼は尋ねた。
「サカリアスに会えますか?」
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