2024/11/08

第11部  太古の血族       13

  テオが敷地内に車を乗り入れると、犬が数頭吠えながら近づいて来た。白人が”インディオドッグ”と呼ぶ、毛足が短い、耳の先がちょっと折れた、細長い顔の中型の犬種で、一応コモン・インディアン・ドッグに分類されているセルバ犬だ。テオはこの犬種の遺伝子を調べて、セルバ固有の犬種ではないことを確認した。中米地方のどこにでもいる犬とヨーロッパ人が持ち込んだ犬の雑種だ。
 犬はテオが車を停めると吠えながら取り囲んだが、ロホが降車すると大人しくなった。吠えるのではなく、尾を振って、主人一家の一人が帰って来たと認識した様子だった。ロホは特に犬たちを可愛がる素振りもなく、テオが降車すると、彼を誘って家に向かって歩き出した。
 裏の納屋の様な大きな建物から、男が一人出て来た。先住民の顔をしていたが、ロホの家族ではなさそうで、「こんにちは、坊ちゃん」と言う挨拶をしたので、従業員なのだろう、とテオは想像した。
 ロホが彼に尋ねた。

「私の家族は在宅か?」

 男がちょっと考えてから答えた。

「旦那様はお出かけです。奥様と若旦那はいらっしゃいます。多分、事務所の方でしょう。弟さん達は学校です。」

 ロホは「グラシャス」と返し、男はまた仕事に戻るために納屋へ歩き去った。

「若旦那と言うのは、長兄です。」

とロホが説明した。

「長兄の奥さんと子供達は学校でしょう。ああ、嫂は教師なんで、働いているんです。」

 テオはロホが他の”ヴェルデ・シエロ”達から、「御曹司」とか「若様」とか呼ばれるのを何度も耳にしていたし、アスルが「彼の実家は貴族だ」と言っていたので、どんな豪邸に住んでいるのかと、ずっと色々想像していた。家族もきっと優雅にセレブ生活を楽しんでいるのだろうと思っていた。しかし、ブーカ族の貴族様は、普通に農業を営み、学校やオフィスでお勤めしているのだった。ちょっと肩透かしを食らった気分だったが、これは生き残るための知恵なのだろう。堅固な階段住宅に住むマスケゴ族だって、全部が裕福とは限らない。家は立派でも生活はカツカツの人もいるのだ。
 ロホはテオを案内して正面の階段を上った。

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