10分ほど庭を眺めながら世間話をしていると、テイサが年上と思しき男性と一緒に戻って来た。ロホが立ち上がったので、テオも素早く立った。テイサがテオに向かって言った。
「長兄のサカリアス・マレンカです。 サカリアス、こちらがセルバ大学生物学部遺伝子工学科のアルスト准教授です。」
一般にセルバ人は兄弟間で敬語を使ったりしないものだが、この家ではそうでないらしい。少なくとも、長兄は特別な位置にいるようだ。
サカリアスはロホにもテイサにもウイノカにも似ている。紛れもなく同母同父の兄弟だ。少し歳を取っているが、一番ロホに似ている様に見えた。彼は普通に襟付きのシャツとコットンパンツをはいており、普通に裸足だった。髪の毛も短く刈ってあるが、坊主頭ではない。
彼は右手を左胸に当てて、丁寧に頭を下げた。
「ドクトル・アルスト、お噂は耳にしております。弟の命を救ってくださった恩人ですね。」
するとテイサが慌てた。どうやら直前までロホの恩人だと言うことを思い出さなかったらしい。
「あ、あの時の・・・」
彼は右手を左胸に当てて、最敬礼した。
「アルファットを救ってくださり、有り難うございました。」
テオもちょっと慌てた。
「いや、救われたのは俺の方です。俺がテロリストに誘拐されたのを彼が助けてくれたのです。」
当の本人は涼しい顔で、
「兎に角、挨拶はその辺にして、訪問の要件を聞いてください。」
と言った。
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