2024/12/18

第11部  太古の血族       26

  テオ、ロホ、アスル、ギャラガはテオの車で、テオとケツァル少佐のアパートに向かった。道中、誰も口を聞かなかった。かと言って、車内で緊張していた訳でもない。運転しているテオを除いて、3人の大統領警護隊隊員は寝ていた。
 夕刻前だったが、テオは友人たちを伴って帰宅した。少佐とデネロスはエダの神殿に出かけて今夜は帰らないから、テオは車を出す前に家政婦のカーラに電話をかけて、4人分の夕食を頼んでおいた。夕食が出来上がるまで、彼等はテオのスペースの居間に入って、水だけでこれまでの経過を報告し合った。
 アスルとギャラガは”ヴェルデ・シエロ”の医療に携わる人々を訪ねて、「貴人」の診察を頼まれたことはなかったかと訊いて歩いた。そうした人々は普段は別の仕事を持っていて、医師の真似事が出来るなんて周囲の人間に悟られないよう生活しているのだ。しかし大統領警護隊の訪問を受けて、正直に答えてくれた。誰も大神官代理を診察したことはなかった。しかし、最後にギャラガが、大統領警護隊警備班に勤務する仲間の実家を思い出した。アフリカ系の血が流れる”ヴェルデ・シエロ”の医師ピア・バスコは西洋の医学を修め、町医者として地域医療に献身している女性だ。アスルは大神官代理が白人の医療を受けるだろうかと疑問を抱いたが、他に訪ねる目的地も無くなったので、ギャラガに逆らわず、バスコの診療所を訪問した。そして、バスコ医師はロアン・マレンカを診察したことを打ち明けた。それはアスルとギャラガが大統領警護隊だから、と言うより、息子達の災難に関わって、一家を助け支えてくれた人々だったからだ。

「あの尊いお方は、末期の膵臓癌に侵されています。」

 彼女は大神官代理の病状を説明し、グラダ大学付属病院を紹介したことを明かした。だから、アスルとギャラガは病院に行って、テオとロホに出会ったのだ。
 テオもロホの実家へ行って、マレンカ家の長兄サカリアスから情報をもらったことを語った。アスル達が足を使って得た情報を、こちらは座って話を聞くだけで得たのだから、申し訳ない感じがしたが、アスルは何も言わなかったし、ギャラガは「よく教えてくれましたね」と感心した。兄弟だから教えてくれた、なんて考えないのだ。彼等はロホの実家が一族の最高機密を扱う家族だと知っている。それも家長と後継者しか伝えられない機密だ。四男なんて、そんな機密事項に触れることすら許されない、とアスルもギャラガも承知していた。

「兄はあまり神殿の権威を信頼していないようだ。」

とロホが苦笑した。

「ところで・・・」

とテオが彼に振った。

「君は大神官代理から、何か聞いたんじゃないのか?」


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第11部  太古の血族       26

  テオ、ロホ、アスル、ギャラガはテオの車で、テオとケツァル少佐のアパートに向かった。道中、誰も口を聞かなかった。かと言って、車内で緊張していた訳でもない。運転しているテオを除いて、3人の大統領警護隊隊員は寝ていた。  夕刻前だったが、テオは友人たちを伴って帰宅した。少佐とデネロ...