「普段、私達近衛兵は神殿横の集会所と呼ばれる場所で待機しています。」
とキロス中尉が囁いた。
「神殿内部には女性が入ることは禁止されているのです。」
「旧態依然の問題ですね。」
ケツァル少佐はあっさりと言い切り、神殿の中に足を踏み入れた。石の暗い通路が伸びていた。照明はない。 ”ヴェルデ・シエロ”には必要ないからだ。床は少し埃が溜まっていた。普段人が来ない神殿だから、掃除が行き届いていない。近衛兵も神官も掃除などしないのだ。その埃の中に数人の人間が歩いた跡が残っていた。入った跡はあるが出て行った跡はない。神官達は中に籠ったきりなのだろう。食事や排泄はどうしているのだろう、とデネロス少尉は素朴に疑問を抱いた。神官がエダの神殿に篭って何日経っているのだ? 神殿の周囲に結界を張った人間がいるのだから、力は保持しているだろう。備蓄食糧でもあるのか? それとも近衛兵に見つからないよう出入りする通路でもあるのだろうか。
10メートルも行かないうちに通路は階段になった。地下へ降りるようだ。キロス中尉が後ろを振り返り、ナカイ少尉を指差した。 ”心話”で命令したようで、ナカイは敬礼すると足を止めたまま、そこに残った。見張りだ。もし仲間が戻らなければ、本部へ連絡する役目も与えられたのだろう。
ケツァル少佐は中尉に頷き、彼女の判断を承認した。
彼女達はさらに足を進め、階段を下って行った。デネロス少尉は微かに蝋燭が燃える匂いを嗅ぎ取った。珍しく照明を用いている部屋があるようだ。階段の途中の壁にニッチの様な棚があり、そこに蝋燭が1本点されていた。マリア・アクサ少尉が殆ど音にならない声でデネロスに教えてくれた。
「酸素があることを確認している。」
デネロスは理解した、と頷いた。
ケツァル少佐が階段の最後の段を降りて足を止めた。前を向いたままで手を後ろに突き出し、「待て」と合図した。近衛兵とデネロスは階段の中途で立ち止まった。
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