カエンシット神官はサスコシ族だ。能力的にはブーカ族と同等だが、人口や政財界進出度を比べると圧倒的に劣勢だった。神官も彼一人しかいない筈で、ケツァル少佐は感じ取っていた結界がカエンシット神官とカイナ族の神官の2人で張っていたのだと知った。わずか2人で他の10人を相手にしていたのか?
「何故同僚の神官達を外に出したくなかったのです?」
一人のサスコシ族が複数のブーカ族やマスケゴ族を相手に同等に戦えると思えなかった。それに、滅多に人前に出ないオクターリャ族の神官も力が強いだろう。
カエンシットは少し躊躇ってから、「そこで待て」と言い、素早く身を翻して通路の奥へ姿を消した。彼が結界で押さえつけていた他部族の神官達の様子を見に行ったのだろうか。
少佐はキロス中尉を見た。 中尉が”心話”で話しかけてきた。
ーー神官達は何か仲違いをしているのでしょうか?
ーー大神官代理の後継者選びで意見が割れていることは確実でしょうね。
中尉にすれば、大統領警護隊より身近にいる上司になる神官の意見が割れることは、任務の方向性そのものに関わるのだ。神殿近衛兵は神殿に穢れが入ったり、暴漢が侵入することを防ぐ仕事をしている。神殿内部で問題が起きれば、神官の指図で不穏分子を取り除くのも役目だ。しかし、その神官自体が不穏分子であった場合、近衛兵は長老会に指示を仰がねばならない。長老会が大統領警護隊の実質上の司令塔だからだ。エダの神殿は長老会がいるグラダ・シティの神殿から遠い・・・。
奥から足音が近づいて来た。 ”ヴェルデ・シエロ”は通常足音を立てないから、これは待っている人に「そこへ行く」と告げているのだ。少佐と中尉は姿勢を正て立った。彼女達の前にカエンシットとアスマ両神官が現れた。
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