ケツァル少佐とデネロス少尉は6人の神殿近衛兵と2人の神官と共に、会所と呼ばれた近衛兵の控えの建物に入った。簡素な建物だ。外観は森に溶け込んで建物があるように見えない。内装は石を敷いた床、細長い壁に作り付けのベンチ、ハンモックが4つ、木製のテーブルと椅子が数脚あるだけだった。装飾品はなく、近衛兵の荷物らしきリュックがいくつか隅に置かれていた。一つだけ、奥の壁に作り付けられた棚にアサルト・ライフルが近衛兵の人数分収納されていた。
キロス中尉は神官と上級将校であるケツァル少佐に椅子を勧め、彼女の仲間とデネロスはベンチに銘々腰を降ろした。
「それでは・・・」
と彼女は神官に向き直った。
「畏れ多いことですが、今何が起きているのかを、私どもにご説明頂きたい。」
アスマ神官が「私から話そう」と立ち上がった。
「ことの始まりは、1年前、”名を秘めた女の人”が白いジャガーの夢を見られたことだ。」
”曙のピラミッド”に住まう大巫女の夢は予言であったり、一族の命運に関わる意見であったりする。それを解釈するのが大神官の役割だ。
「大神官代理マレンカ様は、こう解釈された。グラダが戻って来る、と。」
近衛兵達が思わずケツァル少佐を見たが、少佐は眉ひとつ動かさなかった。彼女が純血のグラダ族であることは誰でも知っている。それに女性は巫女でない限り政治に関わらないことが一族の中の常識だった。
「神官達は、ケツァル少佐かその兄弟が子を生むのだろうと、そう思った。それは、失礼に聞こえるかも知れないが、大した問題ではなかった。少佐が誰と結ばれようと、兄弟達がどんな相手を選ぼうと、生まれてくる子供は純血のグラダではない。そして我々は少佐とその家族の心が政治にないことも知っているつもりだ。」
ケツァル少佐が小さく首を振って同意を示した。彼女は、今耳にしているアスマ神官の言葉意外のことを考えないよう努めていた。もっと大きな秘密があることを誰にも悟られてはならない。
「もし次の純血のグラダが生まれるとしても、それは世代を超えた未来のことだ。夢の解釈はそこで終わる筈であった。」
アスマ神官はエダの神殿の方角をチラリと見た。内部に残っている同僚の存在が気になるのだろう。彼は数秒後にまた女性達に視線を戻した。
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