「ブーカ族のスワレ神官が、己が血族にグラダの血が流れていると言い出した。彼は他の部族にもグラダの血脈がいる筈だと言い、同じ様な言い伝えを家族の中で持っている5人の神官とグループを作った。ブーカが2人とサスコシ1人、マスケゴ1人、それに怪しからぬことに、あの控えめで慎重な部族であるグワマナも1人・・・彼等はこう言い出したのだ。
『神官は世襲制にすべきである』と。」
え〜っと思わず声を出してしまったデネロス少尉が慌てて自分の手で口を押さえた。誰も彼女を咎めなかった。近衛兵達は皆彼女と同じ思いだったのだ。
グラダ族の血が遠い時代に混ざっていてもおかしくない。それを家族の中で代々言い伝えられても不思議でない。しかし、神官を世襲制にすると言うのは突飛ではないか? ”ヴェルデ・シエロ”は王族と言うものを持ったことがない。貴族と呼ばれる家系があるが、それは代々同じ仕事をして来た家であって、それも世襲ではなく、子孫がその仕事をする能力がなければ養子を迎えたり、技術を他家に伝えて絶やさぬようするだけだ。
神官は長老会が一族の中の子供達から選出する。全員遠い親戚であっても世襲の対象者ではない。
アスマ神官は馬鹿馬鹿しいと言いたげに天井に視線を向けた。
「神官は一族の中で政治を行うが、セルバ共和国の政治に口を出さない。それが我々一族が生き延びてこられた理由だ。世襲にすれば、必ず実務世界で権力を欲するようになる。 そして表舞台に出れば、我々一族の存在が世に知られてしまう。」
"ヴェルデ・シエロ”は他人の目を見て相手の脳を支配する能力を有している。これは部族に関係なく彼等種の共通の能力だ。だから他の種族がそれを知れば、きっと恐怖を抱き、排除しようとするだろう。それを古代の支配力を失った時に”ヴェルデ・シエロ”は思い知らされたのだ。それ以来、ずっと正体を隠して生き延びてきた。彼等は目立ってはいけないのだ。
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