「大神官代理マレンカ殿は、世襲制と言う考えに批判的だった。彼は何故神官が世襲制でないのかを、スワレ達に穏やかに説いて聞かせた。それは我々が神官候補として幼児期から聞かされてきたおさらいだ。全員の頭に染み込んでいる筈だったのだ。しかしスワレや彼のシンパは神殿が一族の中で力を維持するのはグラダの血が必要であり、それを保つには世襲制が一番だと言う考えに固執した。
神官は二つの会派に分かれた。直接の争いごとはなかったのだ。今まで通り、穏やかに政治に裏から介入し、祭祀を執り行う生活に変化はなかった。我々世襲制反対派は、そのまま時間が経てばやがてスワレ達の心もまた元通りになるだろうと楽観してしまった。」
そこでアスマ神官が少し休んだ。代わりにカエンシット神官が言葉を繋いだ。
「マレンカ殿が病に冒されたことがわかったのは、半年前だった。初めのうちはあの方も疲れが溜まっていると思われたので、誰にも体の不調を伝えなかった。しかし次第に体が動かしにくくなり、腰の痛みが酷くなり、側近達が気がついて長老会に報告した。
長老会は大神官代理に面会し、彼の体を診た。そして彼の腰の膵臓に異変を見つけた。」
近衛兵達の中から溜め息が聞こえた。膵臓は病気になってもなかなか表に現れない。痛みが出たら、もう手遅れの段階であることが多い。
「指導師達が手当てに掛かったが、マレンカ殿の病は一向に良くならなかった。長老会は話し合い、何らかの結論を導き出した。」
デネロス少尉が、無礼を承知で口を挟んだ。
「指導師が数人で掛かっても治せないのは、呪いがかかっているからじゃないですか?」
アスマ神官とカエンシット神官が彼女を見た。
「君の名は?」
訊かれて、デネロスは上官のケツァル少佐を見た。少佐が答えた。
「大統領警護隊文化保護担当部デネロス少尉です。」
フルネームは教えなかった。だから少尉も自分の口で答えた。
「デネロスです。」
アスマ神官が頷いた。
「純血ではないが、しっかり一族のことを学んでいる、優秀なのだな。」
デネロスは微かに頬を赤くした。カエンシット神官が彼女に頷いて見せた。
「スィ、マレンカ殿は呪いをかけられていたのだ。」
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