デネロス少尉はもう一度ケツァル少佐の目を見た。一瞬で”心話”が交わされた。
ーーこの2人の神官の話はどこかおかしくないですか?
とデネロスは上官に意見を述べた。
ーー大神官代理に呪いをかけた神官が現在神殿内に閉じ込められているとして、閉じ込める目的は何でしょう? 数人のサスコシ族とカイナ族でブーカや他の部族を封じ込めることは可能でしょうか?
ケツァル少佐も即答した。
ーー呪いはかけた本人にしか解けません。しかし複数の人間が大神官代理一人を呪うのはおかしな話です。世襲制に反対しているのは彼だけではないでしょう。
そんな会話がコンマ1秒で交わされた。そして2人の大統領警護隊文化保護担当部の隊員は同じ結論を得た。
アスマ神官とカエンシット神官は信用出来ない。
デネロスはキロス中尉を見た。彼女のB Fと同姓で同じ階級の神殿近衛兵は、ちょっと顔をこわばらせている様に見えた。神官達の話を信じて異常事態だと思っているのか、それともやはり何か胡散臭いものを感じて不愉快なのか。
デネロスは無邪気な顔で神官に尋ねた。
「私、あまり賢くないのでよくわからないのですが、呪いって、大神官代理の様な強い人でもかけられてしまうのでしょうか?」
アスマ神官が優しい笑で彼女を見た。無知の子供を諭すように言った。
「大神官代理は普通のブーカ族だ。だから他者からの攻撃を跳ね返すことが出来なかった。」
「すると、呪いをかけたのは同じブーカ族なんですね? その・・・スワレとか言う?」
「スワレが犯人かどうかはまだわからない。だがブーカ族は他にもいるし、彼等が力を合わせればマレンカ殿はひとたまりもなかっただろう。」
「それじゃ、病気にしないで、さっさと殺しちゃえば良いじゃないですか。」
ちょっと過激な言葉をデネロスが出したので、ケツァル少佐が「これ!」と注意した。
アスマ神官が苦笑した。
「穏やかに反対派を排除しようとしたのではないかな?」
「穏やかにって・・・」
デネロス少尉はしつこく言った。
「反対派は大神官代理だけじゃないですよね? 悠長なことをしていたら、長老会に報告されちゃいますよ。」
カエンシット神官が少しうんざりした顔になった。
「この”出来損ない”の少尉は何にこだわっているのだ?」
その場の空気がビーンと凍りついた様になった。デネロス少尉はケツァル少佐が怒った、と思った。 ”出来損ない”と言う純血種以外の人間に対する差別用語を神官が使ったからだ。しかし、意外な人が発言した。
「彼女がこだわっているのは、あなた方のお話が信用出来ないってことですよ。」
キロス中尉だった。
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