「我々は決して暴力など使わぬ・・・」
アスマ神官はムッとして答えた。もっとも”ヴェルデ・シエロ”にとって物理的な暴力だけでなく、精神波で相手の身体に危害を加えることも暴力だ。呪いは暴力の中でも最も卑怯なやり方だ。
「エダの神殿内の神官達にこちらへ来ていただきましょうよ!」
とデネロス少尉が提案した。彼女は最も頼りになる上官を見た。
「少佐、無理でしょうか?」
「無理ではありません。」
ケツァル少佐は少し面白いと感じていた。神官は普段威張っている。滅多に大統領警護隊の前に出て来ないし、神聖な存在として直接話しかけることも出来ない立場の人々だ。その人々を神殿の外に呼び出す。
「エダの神殿の中にいらっしゃると言うことは、とても好都合です。私の”感応”が遠くへ散開することもありません。」
「”感応”を使うのですか?」
キロス中尉が少し衝撃を受けた。 ”感応”は普通親が子を呼んだり、上官が部下を呼ぶときに使う。目上の人に目下の人間が使うのは非礼だ。しかし、彼女の部下達は異論を唱えなかった。みんな好奇心に満ちた目でケツァル少佐を見ていた。キロス中尉は自身も同じだと感じた。
「私もやってみてよろしいですか?」
「スィ。内容を統一しましょう。」
一瞬少佐と中尉は視線を合わせた。神官達を呼び出す言葉を打ち合わせたのだ。そして2人の女性は互いに微笑み合い、一瞬表情を凍結させた。ほんの一瞬だ。瞬きより短い時間だった。
アスマ神官とカエンシット神官が微かに唸った。彼等は妨害の時間すら与えられなかった。それにいつの間にか2人は他の近衛兵に小さな結界で包まれていて、彼等自身の”感応”を使える状態でもなかった。
デネロスは近衛兵達が槍とアサルトライフルを持つのを眺めた。近衛兵達は今朝まで仕えていた神官達に敵対することも厭わないのだ。
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