実際のところ、ムリリョ博士がやって来るのにどのくらい時間がかかるかわからなかったので、アスルはリビング中央のソファの上に横になり、ギャラガもいつもの様にシュラフに体を入れた。テオはロホと向かい合ってテーブルに着いて、アルコール度数の低いビールを飲んだ。
「実を言うと、俺は君が俺には教えてくれていない秘密を抱えているような気がするんだ。」
とテオは言った。昼間、ロホは病院で病気の大神官代理と”心話”で話をした。その後、少し口数が少なくなったのだ。大神官代理が3人の神官と後継者選考に関する方法で意見の対立があった、と語ったことは、食事の時にテオ、アスル、ギャラガに話してくれた。しかし彼は部下の2人と目を合わさず、何か含んでいるような話し方をした。アスル達もそれに気づいている様子だったが、彼等は上官を信じて何も言わなかった。
ロホは小さな溜め息をついた。
「貴方方に言わない方が安全だと思ったので、少佐が戻られるまで私の胸の内にしまっておくつもりだったのです。しかし、ムリリョ博士がここに来られると言うことは、それに関係していることかも知れません。」
「ムリリョ博士と一緒に俺達も聞いた方が良いのかな? それとも、俺は白人だから知ってはいけないことなんだろうか?」
「白人だから、と言う理由で貴方を疎外するつもりはありません。多分、本当は私も知るべきでなかったのかも知れません。」
彼は一瞬視線を宙に泳がせた。
「こんな場合、サカリアスやウイノカだったら、どうするかなぁ・・・」
「ウイノカ?」
テオは懐かしい名前を聞いた様な気がした。神殿で事務関連の業務をしているとロホが信じていた3番目の兄だ。しかし、テオと出会ったウイノカは、彼もまた大統領警護隊の隊員で神殿近衛兵と言う役職だと言っていた。そしてロホは、長兄からその3番目の兄の正体を知らされたばかりだった。
「3番目の兄ウイノカ・マレンカは神殿近衛兵だったのです、テオ。大統領警護隊の司令部直下の役職で・・・ああ、貴方は彼に会って毒の分析を依頼されたのでしたね。」
「スィ、サカリアスはウイノカが大神官代理から勅命を受けて、グラダ族の子孫を次の大神官に立てようとする神官の動きを報告する役目をしていたと言ったんだよな? その神官達は長老会に唆されている・・・。」
テオは疑問を感じた。ムリリョ博士は長老会の一員だが、養子のケサダ教授がグラダ族であることを必死で隠している。彼は長老会から浮いているのだろうか。
その時、コンドミニアムの正面玄関を入ったところにある各入居者の郵便受けに取り付けられたチャイムが鳴った。
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