2025/02/23

第11部  内乱        20

  ムリリョ博士がセキュリティカメラに映った。カメラを睨んでいるので、テオはインターコムで部屋の階数を告げた。 ”ヴェルデ・シエロ”はエレベーターの使用を好まないが、年を取った博士は渋々ながらエレベーターで上がって来た。テオはエレベーターを降りたところの狭いロビーで出迎えた。彼の階は最上階でドアが2つある。どちらもケツァル少佐所有の部屋だが、テオが使用している部屋へ博士を招き入れた。
 博士は夜分遅い訪問を詫びることなく、リビングに入った。そこではロホ、アスル、ギャラガが整列して博士を迎えた。博士は床の片隅に集められた毛布やシュラフをチラリと見てから、若者達に頷いた。

「お前達、3人が大神官代理に面会したのか?」
「その通りです。」

 代表してロホが答えた。博士がまた尋ねた。

「ロアン・マレンカは病気の原因を言ったか?」

 アスルとギャラガがロホを見た。大神官代理と”心話”で話をしたのはロホだけだ。ロホは宙に視線を向けて、肯定した。

「スィ、大神官代理はカエンシット神官に呪いをかけられたと仰いました。」

 え?! とテオはロホを見た。アスルとギャラガも目を見張って上官を見た。ムリリョ博士だけが表情を変えずにロホを見つめた。

「カエンシットに呪われたと言ったか?」
「呪いをかけたのはカエンシット神官一人、しかしアスマ神官とエロワ神官が力を貸したと・・・。」

 博士はいつも不機嫌そうな顔をしている人だが、この時は鬼の様な形相になった。

「神官が人を呪うなど、あってはならぬ。ましてや大神官代理を害するとは。」
「訊いて良いですか?」

とテオが口を出した。ムリリョ博士が彼の存在を思い出した様な目で振り返った。

「なんだ?」
「そもそも今回の出来事は、何が原因で起きているのですか? 神官同士の権力闘争ですか?」

ふん! と博士はいつもの表情に戻った。苦虫を潰した様な顔だが、これが普段の表情だ。

「権力闘争? ああ、その通りだ。長老会と神官達が合同で会議を開いた時に、長老の一人が最近の神殿の影響力低下を嘆いたのだ。政府が神殿の言うことを聞かぬとな。神殿の意向は長老会の意向であり、一族の安定の為のものである。政府が打ち出す政策は決してセルバ人民に幸福を約束するものとは限らぬ。ごく少数の大企業や富豪に幸福を与えるだけだ。だから、もっと神殿の力を政府に及ぼすべきだ、と。すると別の長老が、”名を秘めた女”が最近見た夢の話をした。しなくとも良い余計な話だ。」

 テオは科学者だが、セルバに住み着いて以来、呪いや夢の話にすっかり慣れっこになってしまっていた。セルバ人はキリスト教徒が大半を占めるが、古代からの呪いや夢占いも信じている。だからムリリョ博士の話を彼は真剣に聞くことが出来た。

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第11部  内乱        25

 テオが彼自身の寝室に入ってすぐに電話に着信があった。見るとケツァル少佐からだった。 ーー1人ですか? 「ノ、ロホ、アスル、それにアンドレがリビングにいる。」 ーーでは、1分後に行きます。  テオは急いで寝室を出てリビングに向かった。そこでは大統領警護隊の男性隊員達が寝る体制に入...