大広間を壁伝いに移動するのは時間がかかった。テオはママコナを追い越してはいけなかったし、近づき過ぎてもいけなかった。歩幅を狭くして歩くのは、疲れるものだ。
テオは次から次へと頭に浮かぶ疑問、彼女に訊いてみたいことを、整理がつかぬままに質問にしてみた。
「俺は友人達から貴女が男の人を好きでないと聞かされていましたが、今、貴女は俺と普通に話をされていますね。怖くないですか? 俺は初対面の異人種ですよ?」
ママコナが振り返った。足は止めない。
「貴方から敵意を感じません。それに貴方は一族の味方だと聞いております。以前、ここに白人の女性が来たことがあります。彼女も”通路”を通って来ました。女官や近衛兵が大騒ぎしましたが、&%$%%(テオには聞き取れなかった)が、彼女は私達の友達だと言いました。貴方は彼女の兄弟でしょう?」
テオは、彼女がアリアナ・オズボーンのことを言っているのだとわかった。オルガ・グランデの地下洞窟から、彼女はロホに導かれて脱出したのだが、出口がこの地下神殿だったので、大騒ぎになった、と後にムリリョ博士が苦言を呈していたのだ。博士は「白人が神殿を汚した」と言っていたが、目の前にいるママコナはそんな考えを持っているのだろうか。
「俺は白人です。神殿を汚したことになりませんか?」
「それは頭が硬い年寄りの考えです。」
とママコナがあっさりと言ってのけた。
「穢れなら、同胞を爆裂波で傷つける人間の方がずっと汚れているでしょう?」
「仰せの通り・・・」
ケツァル少佐や高齢の”ヴェルデ・シエロ”はママコナを世間知らずの箱入り娘の様に表現している。しかし、彼女は実際は聡明で機転が効いて、物知りなのではないか、とテオは見識を抱いた。そして心が広い。
そしてもう一つ、ある謎が解けた。それは彼女が時々口にする”ヴェルデ・シエロ”の”真の名”をテオが聞き取れない理由だ。 ”ヴェルデ・シエロ”の真の名前は人間の言葉の「音」ではないのだ!
この人は、ジャガーの声で同胞の名前を呼んでいる・・・
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