「ムリリョ博士は、どんな返答をしたのです?」
テオはちょっと不安になった。ケサダ教授の出自に疑問を持つマスケゴ族がいる。そして世襲制を提案した神官は、グラダ族の血を受け継ぐ神官が現れることを望んでいる。
「私も同じ質問を義父にしました。」
とケサダ教授は言った。
「義父は、『儂はオルガ・グランデの闘いに巻き込まれた現地の一族の女から、あの小僧を託されただけだ。義理息子の身元を知りたければ、”名を秘めた女”に訊けば良い』と答えたそうです。」
「それで神官は納得したのですか?」
「少なくとも、それ以上は食い下がったりしなかったようです。」
そしてテオの話を促した。
「この話と今起きていることはどんな関係があるのですか?」
それで、テオはどこから話そうかと迷った。
「これは、神殿の醜聞、貴方の一族の醜聞になるかも知れません。」
と前置きして、神官が世襲制の案を出したことから、一連の騒動が始まったことを話した。神官の世襲に反対した大神官代理ロアン・マレンカが世襲派のカエンシット神官、アスマ神官、エロワ神官の呪いを受けて、重体になっていること、3人の神官は神殿近衛兵の女性だけをエダの神殿に連れて行き、どうやらそこで世襲制の子供の母親を近衛兵から選ぶつもりだったらしいこと、ケツァル少佐とデネロス少尉が大神官代理の行方を探す手がかりを求めてエダの神殿に行き、女性近衛兵達と合流して、神殿を封鎖していた3人の神官を捕縛したこと、他の神官と彼女達はグラダ・シティの神殿に戻ったが、ムリリョ博士がテオのアパートに来て、まだ世襲派の神官や協力者がいる筈だと言い、文化保護担当部は神殿に向かったこと。
ケサダ教授は暫く黙っていたが、やがて尋ねた。
「神官が世襲制の考えを持つに至ったのは、長老会の誰かがそんな案を口にしたから・・・それが最初ですね?」
テオは思わず自分が語った話を頭の中で再考した。
「スィ・・・そうです・・・」
教授が溜め息をついた。
「私の成年式を見た長老は全員この世にいません。しかし、話を聞いたことがある身内がいるのかも知れない。」
「すると・・・」
テオはドキリとした。 白いジャガーを見た話を聞いたと言うことだ。
「白いジャガーとグラダを結びつけるのは早急では?」
と彼が言うと、ケサダ教授が彼をジロリと見た。
「誰が白いジャガーですって?」
え?とテオは戸惑った。教授のナワルが白いことを知っている、と彼は教授に言ったことがなかった・・・のか?
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