テオは用心深く尋ねた。
「白人の俺が、貴方方の秘密を知り過ぎると、生きてここから出られないような気がするのですが、俺は今どんな立場にいるのでしょう?」
最長老が近くの棚に心なしかもたれかかった様に見えた。
「貴方の立場は、ピラミッドの中に現れた時から危険な位置にあります。神殿近衛兵に見つかれば、有無を言わさず連行され、ワニの池に投棄されるでしょう。」
恐ろしいことをサラリと言ってのけた。テオは言った。
「それは愉快じゃないですね。」
「私もそう思います。」
最長老は面白がっている様な声音だ。テオを痛ぶっているのかも知れない。
「でも」
と彼女は言った。
「貴方が我々を危うくするような人でないことを、私は承知しているつもりです。」
「グラシャス。」
「現在神殿内部では、貴方がご存知の内乱でゴタゴタが起きています。 ”名を秘めた女性”は現在の神官達を以前からあまり信用していません。現在の状態を予感していたのでしょう。ですから女性の近衛兵のみに話かけられ、男達の不審をさらに買う羽目になってしまいました。」
「悪循環ですね。」
「スィ。神官の半数を入れ替えなければならないでしょう。」
「でも、神官は子供の時から修行を始めなければならないのですよね?」
「そう言われていますが、近衛兵も十分その修行をしているのですよ。神託なんて、”名を秘めた女性”にしか降りてこないのですから、大神官も大神官代理も必要ないのです。」
大胆なことを言って、最長老は仮面の奥で笑った。
「最長老達を招集して、これから神官の弾劾裁判を始めます。」
「俺の友人達は?」
「彼等は証人として暫く神殿内に留め置かれますが、言うべきことを言って仕舞えば、帰されます。」
テオには、神官達がこの後どうなるか知らされないだろう。そして友人達も一族の最高幹部達の決定を全て知る訳でもないのだ。テオはこれ以上求めても、目の前の最長老が何も教えてくれないことを知っていた。
「後一つだけ・・・俺の友人の白いジャガーは、どうなりますか?」
最長老が少し間を置いてから答えた。
「”名を秘めた女性”が”アタ”を必要と感じた時に召喚します。」
「彼の意志に反しても?」
「申し訳ありませんが・・・誘拐するかも知れません。誘拐出来れば、ですが。彼は純血のグラダでしょう?」
ケサダ教授が抵抗すれば、神殿など破壊されるかも知れない。テオは譲歩策を考えた。
「俺から彼に白いジャガーの役目を伝えては駄目でしょうか? 神殿から要請が来た時に、彼が素直に応じてくれるように・・・」
「出来れば、そうしていただきたいです。」
最長老が溜め息をついた。
「でも、女の子供が出来る迄、帰れないのですよ?」
教授は子沢山だから・・・とテオは思った。後は女性側の体調だろうな、と。
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