ほんの10数分だったが、テオは眠った。声をかけられて目を覚ますと、彼が住んでいるコンドミニアムの前に停車していた。アブラーン・シメネス・デ・ムリリョが運転席で微笑を浮かべて彼を眺めていた。
「疲れているんですね。何があったのか聞きませんが、貴方が大統領警護隊を呼べない状況なのだと察します。」
テオは背もたれから体を起こした。
「グラシャス、ちょっとした事故みたいなもので、自宅から急に遠くへ飛ばされたもので・・・」
普通の人なら意味不明の彼の言い訳を、アブラーンは真面目に聞いてくれた。 ”ヴェルデ・シエロ”の社会なら、偶にあることなのだろう・・・。テオは反対に彼に尋ねた。
「貴方は何故こんな時刻に外を走っていたのですか?」
「私はパーティー帰りです。」
そう言えば、アブラーンはスーツ姿だった。
「ビジネス上の付き合いで、出席しなければならなかったのです。私はプライベイトなら飲みますが、ビジネスでは頭をすっきりさせたいので飲みません。飲んだと思わせて、夜明けまで付き合うつもりはなかったので、抜け出したのです。お陰で貴方を拾うことが出来ました。」
「グラシャス。」
テオは車外に出た。
「貴方のご家族によろしくお伝えください。妹さん達にも・・・」
「父やフィデルではなく、妹達にですか?」
アブラーンが意味深に微笑んだ。女性に関係あることだろう、と勝手に想像したのだ。テオは「おやすみなさい」と言い、アブラーンは彼がドアを閉めると、すぐに走り去った。
テオはアパートに入った。エレベーターで最上階に上がり、自室に入った。ひどく疲れて、寝室に入るとベッドに倒れ込み、そのまま眠った。
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