2021/08/23

番外編 1 雨の日 2

 「どっちが良いと思います?」

 ケツァル少佐が2つのチョコレートの箱を掲げて尋ねた。アーモンドチョコレートとマカデミアナッツチョコレートだ。どっちでも良いと思ったカルロ・ステファンは答えた。

「どっちも彼女は好きですよ。」

 少佐が怪訝な顔をした。

「彼女?」

 一瞬気まずい空気が空港ロビーに流れた様な気がした。カルロはしくじったと悟った。少佐は誰かにあげるのではなく、己のおやつを買っていたのだ。少佐も彼の勘違いに気がついた。低く「ああ・・・」と呟いて、2つの箱を眺め、両方をレジへ持って行った。
 余計な金を使わせてしまった、と彼は反省した。少佐は金持ちだが無駄遣いは決してしない。
 セルバ航空の緑色にペイントされたプロペラ機が降りて来た。セルバは「森」と言う意味だ。国の色も緑だ。国土の4分の3は森林だが、カルロの故郷オルガ・グランデは砂漠の入り口にある乾燥した台地だった。そこから母と妹がやって来た。2人共オルガ・グランデを出たのは初めてだ。飛行機も初めてだ。大きな荷物を載せたカートを引きずって2人がゲートから出て来た。国内線は搭乗する時は荷物の検査が厳しいが、降りる時は自由だ。カルロは懐かしい家族の顔が見えた瞬間、足早にそちらへ向かった。少佐を売店に置いて来てしまったが、迷子になったりしないだろう。

「カルロ!」

 母親が名を叫んだ。彼は最後はダッシュで母と妹に駆け寄った。母がカートを彼の方へ押した。

「ちょっと見張ってて!」

 ハグする間もなく、母と妹は空港のトイレにダッシュした。彼が呆気に取られてカートの取っ手を握って立っているところへ少佐がやって来た。トイレに駆け込んでいく母と娘をチラリと見て、呟いた。

「気の毒に、ずっと我慢していたのですね。」

 セルバ航空国内線の揺れはハンパではない。


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第11部  紅い水晶     19

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