「どっちが良いと思います?」
ケツァル少佐が2つのチョコレートの箱を掲げて尋ねた。アーモンドチョコレートとマカデミアナッツチョコレートだ。どっちでも良いと思ったカルロ・ステファンは答えた。
「どっちも彼女は好きですよ。」
少佐が怪訝な顔をした。
「彼女?」
一瞬気まずい空気が空港ロビーに流れた様な気がした。カルロはしくじったと悟った。少佐は誰かにあげるのではなく、己のおやつを買っていたのだ。少佐も彼の勘違いに気がついた。低く「ああ・・・」と呟いて、2つの箱を眺め、両方をレジへ持って行った。
余計な金を使わせてしまった、と彼は反省した。少佐は金持ちだが無駄遣いは決してしない。
セルバ航空の緑色にペイントされたプロペラ機が降りて来た。セルバは「森」と言う意味だ。国の色も緑だ。国土の4分の3は森林だが、カルロの故郷オルガ・グランデは砂漠の入り口にある乾燥した台地だった。そこから母と妹がやって来た。2人共オルガ・グランデを出たのは初めてだ。飛行機も初めてだ。大きな荷物を載せたカートを引きずって2人がゲートから出て来た。国内線は搭乗する時は荷物の検査が厳しいが、降りる時は自由だ。カルロは懐かしい家族の顔が見えた瞬間、足早にそちらへ向かった。少佐を売店に置いて来てしまったが、迷子になったりしないだろう。
「カルロ!」
母親が名を叫んだ。彼は最後はダッシュで母と妹に駆け寄った。母がカートを彼の方へ押した。
「ちょっと見張ってて!」
ハグする間もなく、母と妹は空港のトイレにダッシュした。彼が呆気に取られてカートの取っ手を握って立っているところへ少佐がやって来た。トイレに駆け込んでいく母と娘をチラリと見て、呟いた。
「気の毒に、ずっと我慢していたのですね。」
セルバ航空国内線の揺れはハンパではない。
0 件のコメント:
コメントを投稿