カルロ・ステファンはつい昔の癖で、オクタカス遺跡の盗掘をチェックしたくなった。グラダ・シティの神殿へ通じる”空間通路”の”入り口”へと歩く間、彼の視線は岩山の麓へ向いてしまうのだった。
「彼は何を気にしているのです?」
と女性の長老が最後尾を歩くケツァル少佐に尋ねた。少佐が肩をすくめて答えた。
「文化保護担当部の仕事に未練があるのです。彼が最後に行った監視業務がそこの遺跡でしたから。風の刃の審判の事故で発掘調査が中断されてしまい、彼の任務も中途半端で終わってしまったのです。それに最近の写真を見ると、盗掘被害が発生している疑いがあります。」
「それで気になって仕方がないのですね。」
長老が仮面の下で笑った。
「オクタカスの発掘は何時再開されるのです?」
「今季、フランス隊が戻って来ます。」
「監視は誰が?」
「ここは村が近いので、デネロスを派遣しようと思っています。彼女の初めての長期ジャングル派遣です。」
「それは楽しみだこと。」
先頭のステファン大尉が足を止めたので、一行も止まった。長老が彼に止まった理由を尋ねようとした時、ステファンが手で「待機」と合図した。そして彼自身は忽ち密林の中に駆け込んで姿を消してしまった。
「何を見つけたのだ?」
と背が低い長老が囁いた。背が高い長老が本人に代わって答えた。
「向こうで人の気配がした。複数だ。遺跡に向かっている。」
「盗掘者ですね?」
と女性の長老が言った。彼女はケツァル少佐を振り返った。
「行きなさい。」
少佐は敬礼で応え、素早くステファンの後を追って走り去った。
3人の長老達はその場に立って、待機していた。2人を置き去りにして帰っても良かったのだが、それでは護衛任務の立場がないだろうから、大人しく待っていた。
やがて木立の向こうで銃声が聞こえ、男達の怒鳴る声が聞こえた。
「楽しそうだな。」
と背が低い長老が呟いた。声に羨望の響きが入っていた。
「暴れるのは若者の特権だ。」
と背が高い長老が言った。
「人前に出て暴れるなよ。儂らの年齢で飛び跳ねたら、”ティエラ”が怖がる。」
女性の長老が必死で笑いを堪えて肩を震わせた。
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