久しぶりにテオはロホ、アスル、ギャラガとゆっくり世間話が出来た。全員で夕食の後片付けをして、テオの区画のリビングで男だけの寛ぎの時間を持ったのだ。ケツァル少佐は一向に気にせず、デネロスと女のお喋りを楽しんでいた。金曜日の夜だ。
ロホとグラシエラ・ステファンの交際がどこまで進んだか、とか、アスルが昇級に再び無関心でサッカーに熱中するので、少佐がトーコ中佐からお小言をもらったとか、ギャラガが大学の論文大会に出場することになって、壇上に立って話す練習をしているとか、そんな他愛ない話だ。友人達を揶揄ったり、笑ったりしているテオに、アスルがいきなり反撃に転じた。
「そう言うドクトルは、いつ少佐と正式に結婚するんだ?」
「え・・・?」
テオは固まってしまった。彼の顔を見つめ、ロホが吹き出した。
「一緒に住んでいるんでしょ? 結婚のお試し期間ってことなんだから、少佐のご両親も、ゴンザレス署長も早く結果を聞きたいと思いますよ。」
「そんなこと、言われても・・・」
テオは撫然とした。
「俺1人で結論を出せる筈ないじゃないか。」
「でも少佐は出しておられる筈ですよ。」
ロホがニヤリとした。
「女性が嫌だと言わないのは、O Kってことでしょ?」
「そ・・・そうなのか?」
テオはアスルとギャラガを見た。2人とも澄ました顔で彼を見返した。ロホと違って女性との噂話が全くない2人だ。
「実を言うと、君達”ヴェルデ・シエロ”が求婚する時の作法を知らないんだ。」
テオが白状すると、3人が笑った。
「古式床しいプロポーズの作法なんて今時流行りませんよ。」
とロホが言った。アスルが肩をすくめた。
「俺は習ったことがない。」
「私も作法なんて何も知りません。」
ギャラガもあっけらかんと言い放った。
「軍隊ではそんな作法なんて教えてくれませんから。」
「知りたけりゃ、ケサダ教授に聞けば良いじゃん。ムリリョ博士の娘と結婚しているんだから、正しい礼儀作法で求婚したんじゃないか?」
「貴方の国のやり方で十分でしょう。」
ロホが優しく言った。
「セニョール・ミゲールは奥様にスペイン流で求婚なさったのだと思いますよ。ゴンザレス署長だって、そうじゃなかったんですか? 少佐に限って言えば、どこの作法でも気になさらないでしょう。」
それでテオは彼女の指のサイズを手を握って測ったことを告白した。3人の友人達は彼の才能を疑わなかった。
「それじゃ、石は何にするんだ?」
「ドクトル、ダイアモンドを買えるんですか?」
「ダイアモンドじゃなけりゃ、駄目なのか?」
「まさか!」
するとロホが溜め息をついて教えてくれた。
「セルバでプロポーズに使う石は、オパールと言うのが定石ですよ。ティティオワ山の麓で算出する綺麗なヤツです。」
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