2023/02/05

第9部 古の部族       4

  セラード・ホテルはリゾート気分になれなかったが、寝るだけなら申し分なかった。部屋も平日に関わらずそこそこ塞がっていて、客はそれなりに身なりの良い人々で、ビジネスホテルの雰囲気だった。食堂がないので、朝食はチェックアウトしてからチャパと2人で街中のカフェに入った。そこでマイロはオルガ・グランデ陸軍病院に電話をかけた。グラダ大学医学部出身者が多く働いている病院で、何か相談事があれば陸軍病院に連絡すると良いと学部長に言われていたからだ。マイロは電話口に出た女性に、身分と旅行の目的を告げ、スラム街の住民の健康状態について知りたいが誰に訊けば良いかと相談してみた。
 女性は少し待って下さいと言い、一旦電話から離れたが、数分も経たぬうちに戻って来た。そしてある医師の連絡先を教えてくれた。

ーー町医者ですが、スラム街の住人の健康管理も市から委託されている先生です。

と電話口の女性は親切に言った。

ーー忙しい人ですから、電話で約束を取り付けてから訪問された方が良いでしょう。
「グラシャス!」

 マイロは教えられた番号へかけてみた。数回の呼び出し音の後で、男性の声が応答した。

ーーペンディエンテ・ブランカ診療所・・・
「オーラ、私はアーノルド・マイロと申します。アメリカから来たグラダ大学医学部の客員研究者です。ドクトル・メンドーサでしょうか?」
ーースィ・・・

 相手が戸惑ったのか、すぐには反応がなかった。マイロは急いで続けた。

「シャーガス病の研究をしています。もし時間があれば、スラムの住民の健康状態についてお話しを伺いたいのですが、貴方のご都合はいかがでしょうか?」
ーーシャーガス病?
「スィ。あの厄介な病気の予防方法を研究しています。もし、貴方の患者の中でその症例がありましたら・・・」
ーー患者はいますよ。

 え? とマイロはびっくりして声を出してしまった。セルバ共和国ではシャーガス病は発症例がなかったのではないのか?
 メンドーサ医師が言った。

ーーシャーガス病の患者はいます。だが薬剤が高価なので治療の目処が立たない。

 マイロは緊張を覚えた。

「これからそちらへお伺いしても宜しいでしょうか? お仕事の邪魔はしません。」
ーーどうぞ。診療は9時から始めます。

 時刻は午前7時半だった。


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第11部  紅い水晶     19

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