「ただの石だ。石英の塊だよ。」
とテオが言った。机の真ん中に紙を敷いて洋梨型のキラキラ光る透明の石が置かれていた。
故買屋の家で回収されたその石は、ロホが悪霊が憑いた石や彫像などを入れるのに用いる麻袋に入れて、グラダ大学に持ち込んだ。説明を聞いて、テオは彼とケツァル少佐とギャラガ少尉を己の研究室に待たせて、地質学科へ石を持って行った。そこで鉱物分析に掛けてもらったが、何の変哲もない水晶の塊だと言う結果を得ただけだった。地質学科の知人には「友達が買った石が本物の水晶かどうか確認して欲しい」と言い訳したので、知人は正直に結果を教えてくれたのだ。
「普通、水晶をそんな大きさにカットして装飾品にしたりしないと思うけどね。」
と知人は言った。宝石かも知れない石を扱う為に彼は手袋を着用していたので、吸血被害は受けなかった様だ。
テオが自室に帰ると、大統領警護隊の隊員達はカフェで買ったコーヒーを飲みながら待っていた。テオは袋から石を出して机の上に置いた。
「石に咬まれた訳じゃないだろ?」
「咬みません。」
と少佐がツンツンして言った。
「でも掌から何か吸い上げられる感覚がしたのです。」
「それに、その石は盗まれる前は真紅だったのです。」
とロホ。
「同じ石かい?」
「同じ石です。」
と”ヴェルデ・シエロ”達は言い張った。
テオは少し考えてから、ナイフを出し、自分の左手の親指の腹を切った。痛かったが、彼は常人より傷の治りが早い。傷口から出た血液を石の上に落としてみた。血液は石の表面をゆるゆると流れて紙の上に落ちた。石は少し汚れたが、染まった感じはしなかった。
ギャラガが気を利かせて絆創膏をリュックから出して、テオに渡した。テオは指に絆創膏を撒きながら、次の提案をした。
「俺が素手でそれを握ってみよう。何か変化があったら、すぐに俺の手から取り上げてくれ。」
彼の体を張った実験に、少佐は止めもせず、「グラシャス」と言った。
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