その夜、久しぶりに大統領警護隊文化保護担当部は全員揃ってケツァル少佐のアパートで夕食を取った。勿論テオも一緒だ。和やかに世間話をしながら食事をして、いつもの時間に家政婦のカーラが帰ってしまうと、急にその場の雰囲気が変わった。会食の本来の目的が始まるとみんなが感じたからだ。
まず、ケツァル少佐が”心話”で部下達に彼女が知っている情報を分けた。次にロホとギャラガも順番に残りのメンバーに情報を伝えた。テオは神殿近衛兵のウイノカ・マレンカに固く口止めされているので、黙って聞いていた。
情報交換が終わると、マハルダ・デネロス少尉が、「時系列を整理しましょう」と提案した。
「ラス・ラグナス遺跡に出かけたロカ・エテルナ社の社員ディエゴ・トーレスが石を拾いました。その時、彼に同行したアンヘレス・シメネス・ケサダとファルゴ・デ・ムリリョ博士は”名を秘めた女の人”から何か囁かれましたが、アンヘレスはまだ若く、博士はマスケゴ族なので、”名を秘めた女の人”の言葉を明確に聞き取れませんでした。
大統領警護隊は、トーレスの上司であるカサンドラ・シメネスからトーレスの様子を見てきて欲しいと依頼を受け、彼の家に行き、昏倒している彼を保護しました。その時、彼は遺跡で拾った赤い石を握っていましたが、救急隊員の一人がそれを盗んでしまいました。石は間も無く発見され、ケツァル少佐がアスマ神官に渡しました。この時までに石は”サンキフエラの心臓”と呼ばれるもので、古代にカイナ族が作った呪術石だとわかっていました。石は”ティエラ”から毒や病の素を吸い取ると共に病人の血も吸ってしまいますが、雨を降らせることで浄化することを繰り返し行えることもわかりました。これはカイナ族の隊員ブリサ・フレータ少尉から彼女の家系に伝わる話として聞き取りました。 ”サンキフエラの心臓”は”シエロ”には効力はありませんが、古代の人民支配に為政者の力を示すことが必要な時に使われていたものだそうです。
大統領警護隊文化保護担当部は、神殿に”サンキフエラの心臓”を納めたので、その石に関する事案はもう終わったと思いました。
ところが、数日後、大統領府の厨房で、ガーデンパーティーのリハーサルをしていた厨房スタッフ達が食中毒に似た症状で次々と倒れる事態が発生しました。そして一人の警備班隊員が神殿に納められた筈の”サンキフエラの心臓”を用いて厨房スタッフ達の手当てを行いました。その事件発生時、神官は全員南部のエダの神殿に出かけていました。警備班隊員にあの石を託せる人はいなかったのです。それなのに、石が宝物庫から持ち出され、さらに厨房スタッフ達は毒を盛られたことが判明しました。毒入りの飲み物を彼等に与えた犯人はまだ不明です。」
彼女が一息ついて、水を口に含んだ。そして一同を見回した。
「ここまではよろしいでしょうか?」
全員が頷いた。彼女は後半に取り掛かった。