目の前にいる最長老は、ケサダ教授を知っているのだろうか。 テオは出来るだけ彼を特定されない程度に情報を出してみた。
「俺の友人は既婚者で子供もいるのです。」
すると意外なことに、最長老はこう答えた。
「では、彼の妻に相談しましょう。勿論、その時が来た場合です。」
そして彼女は小部屋の出入り口を手で差した。
「さぁ、貴方をここから外に出しましょう。これから少し急ぎます。長老会の招集がある様子ですから。しっかりついてきてください。」
そしてテオの返答も待たずに部屋から出た。テオも急いで立ち上がり、彼女の後ろをついて行った。
最長老は高齢者だと思えたが、歩く速さはテオと殆ど変わらなかった。 テオの方が遅れまいとついて行くのが大変だった。ジャガーの足で歩いているな、と彼は思った。
長い通路、たくさんの曲がり角、階段を登ったり降りたり・・・照明がなくなった時は流石に彼は動けなくなり、最長老が彼の腕を取った。
「神殿内は儀式的意味もあって、我々には必要がない照明を設置していますが、ここにはありません。段差があれば教えますが、平坦な道は障害物がない限り、私は何も言わずに貴方を誘導します。」
「宜しくお願いします。」
空気に流れがあった。地下道だろうと思えたが、どこかに通風口があるのだろう。やがて、「階段を登ります」と言われて、テオは足探りで段差を見つけ、慎重に登って行った。10段ばかり登って、最長老が不意に彼を前へ押し出した。
急に明るくなった。実際はまだ夜中だったが、月明かりで照らされた風景が見えた。
墓地だ・・・
石造りの四角い小さな小屋の様な墓所の一つから彼は外に出たのだ。それを悟ってから後ろを振り返ると、そこにはもう誰もおらず、闇の中は何も見えなかった。
今通って来た通路は、もしかすると”アタ”だけが知っている秘密の通路なのかも知れない。
テオは墓地の中を見回し、出口の方角に見当をつけると歩き出した。今出て来た墓が誰の墓なのか、プレートを見ようと振り返ると鉄の扉が音も無く閉じられるのが見えた。最長老は心のリモートで閉じたのだろう。月明かりで見える墓碑銘は”クレスセンシア・エステベス”だった。
エステベス・・・? エステベス大佐?