2021/06/23

風の刃 13

  月曜日の朝、シオドアは上空から聞こえて来るヘリコプターの爆音で目が覚めた。宿舎となっている小屋には彼とリオッタ教授、フランス人が2名寝ていたが、全員が騒音で起きてしまった。シオドアは小屋の外に出た。ベースキャンプの端の広場に大型の軍用輸送ヘリが降下して来るところだった。土埃が舞い上がり、彼は一旦ドアを閉めた。ヘリコプターが来たと告げると、フランス人が怪我人を輸送する為に軍が寄越してくれたのだと教えてくれた。ただ、こんな早朝に飛んで来るとは予想していなかったと彼等は呆れていた。シオドアは時間観念が適当なセルバ人らしいと思ったのだが。
 音が止んだのでまた外に出てみると、既にヘリの飛来を知って小隊長が数名の部下と共に軍キャンプから来ていた。ヘリから数人の兵士が降りて、小隊長と打ち合わせを始めた。シオドアが眺めてると、横に立ったリオッタ教授が愉快そうに言った。

「珍しいものが見られたね。あれはセルバ空軍だよ。ヘリとオンボロの戦闘機しか持っていないから滅多に飛ばない、とセルバ人の間でも揶揄われている軍隊だ。」

 水色の軍服の空軍兵と一緒に1人のカーキ色の軍服姿の男が降りて来て、こちらへ歩き出した。シオドアは彼が己の知っている顔だったので、驚いた。思わず駆け寄った。

「ロホ中尉! わざわざここへ来てくれたのか?」
「ブエノス・ディアス、ドクトル・アルスト。」
「テオでいいよ。」
「テオ、お怪我の具合は如何です?」

 訊かれてシオドアは左手を見せた。

「飛んできた石で切ったんだ。でも縫合するほどじゃなかった。直ぐに治るよ。」

 そうだ、俺は怪我がすぐ治る体質だ。その証拠に今朝はもう傷が痛まない。

「怪我人を迎えに来たのかい?」
「それは空軍の仕事です。」

 ロホはシオドアの後ろから近づいて来たイタリア人に視線を向けた。仕事柄考古学者と知り合いなのだろう、リオッタ教授とも朝の挨拶を交わした。礼儀上リオッタ教授の怪我の具合も尋ね、教授が軽症であることを確認した。リオッタ教授が不安気に尋ねた。

「君がお出ましと言うことは、やっぱりこの遺跡は封鎖かね?」
「残念ですが、そう言うことです。事故の原因究明が済む迄は何人も立ち入りを禁じます。」

 失望した教授は肩を落とし、調査隊に情報を伝えに集合棟へ歩いて行った。
 シオドアはロホにグラダ・シティを何時出発したのか尋ねた。するとロホが前日の昼過ぎだと答えたので、驚いた。その時刻、まだ調査隊は遺跡にいて大混乱だったのだ。

「俺の記憶では、フランス調査隊の重傷者がベースキャンプに戻ったのは早くても午後2時頃だった。陸軍が連絡したのかい?」
「ノ。」

 ロホはちょっと困った表情で顔を背けた。

「私が出かけた時は、誰も何が起きたのかわかりませんでした。ただ・・・彼女が私にオクタカスへ大至急行けと命じたので・・・」
「少佐が?」
「デランテロ・オクタカスの飛行場でやっと何が起きたのかわかりました。警護の小隊と連絡が繋がったので事故を知り、その後、少佐とステファンと交互に連絡を取り合って詳細が判明しました。空軍のヘリを手配して、今朝夜明け前に出発したのです。」

 よくわかった様で実は何か重要なことが抜けている説明だ、とシオドアは感じた。

「空軍は負傷者を運ぶ為に来たのだよね?」
「スィ。」
「君は、遺跡の封鎖に来た?」
「スィ。」
「少佐が君にここへ行けと命じた時は、事故の詳細は誰も知らなかった・・・?」

 ロホが困ったと言う顔でシオドアを見返した時、調査隊の人々が宿舎から出て来た。重傷者を担架でヘリへ運ぶ作業が始まり、マーベリック博士はロホから遺跡から撤収するよう言われて大いに嘆いて見せた。だが彼も石で全身を打身だらけにしていたので、これからヘリで運ばれる身だった。フランスの学者達と小一時間話し合い、結局撤収を承諾する書類に署名をした。その間にシオドアはリオッタ教授と共に朝食を取った。

「マルティネス中尉は良い人でしょう。」

と教授が言った時、誰のことかと彼はキョトンとした。その表情が意外だったと見えて、今度はリオッタの方がびっくりした。

「彼の名前を知らなかったのですか?」
「彼って、ロホですか?」
「スィ。ロホは渾名です。彼が率いるサッカーチームのユニフォームが赤いので、考古学者達がそう呼んでいるんです。本名はマルティネスです。アルフォンソ・マルティネス中尉です。」
「あー・・・それじゃ、アスルは・・・」
「キナ・クワコ少尉です。彼のチームは青いユニフォームなんです。」

 純粋な先住民の顔をしたロホが、アルフォンソ・マルティネス? めっちゃ白人の名前じゃん! とシオドアは驚いた。それにサッカーをやるのか。あの無愛想なアスルもサッカーをするのだ。当たり前だよな、ここは中米だ。野球やアメフトをするより遥かに自然だ。
 リオッタ教授が悔し気に呟いた。

「彼は良い人なんですけどねぇ・・・遺跡封鎖は参ったなぁ・・・」

 ロホが集合棟に入って来た。無料の不味いコーヒーを自分で淹れて飲みながらシオドアのテーブルに近づいて来た。シオドアは故意に彼の本名を使ってみた。

「封鎖の手続きは終わったのかい? マルティネス中尉。」

 ロホは彼が自分の本名を知ったことを気にせずに、スィ と答えた。

「これからステファンと合流して発掘現場の片付けの監視と、事故現場の検証を行います。同行されますか?」
 
 思いがけないお誘いにシオドアは躊躇なく頷いた。今日はまだ月曜日だ。丸一日ベースキャンプで過ごすのは嫌だった。
 


2021/06/22

風の刃 12

 結局シオドアとステファン中尉がベースキャンプに戻ったのはお昼をかなり過ぎた辺りだった。遺跡の片付けを中尉が見張らなければならず、シオドアも負傷の程度の重い者から順番に運ばれたので最後のグループになった。リオッタ教授と水筒の水で傷を洗い合った。

「折角ここ迄来たのに、早々と中止ですか。」

 リオッタは残念そうだった。大統領警護隊文化保護担当部は事故の詳細と原因を明らかにする迄は発掘調査再開を許可しないだろう。セルバ流の時間の使い方を考えれば、雨季が来る前に許可が出ると思えなかった。

「それにしても、あの洞窟は奇妙でしたね。」

 考古学者は事故より遺跡を気にしていた。

「人の手を加えてあるのは入り口だけで、中は天然の洞窟に見える。しかし、あんな真っ直ぐな天然洞窟はあり得ない。何らかの理由で手掘りのままの形にしてあるんですよ、きっと。」

 やっとトラックの順番が回ってきた。シオドアがキャンプに戻るので、ステファン中尉も同行する。彼は現場にまだ残る陸軍小隊長に、夕方には調査隊の残りをキャンプに連れ帰ること、作業が途中でも必ず引き揚げさせることを命じた。
 トラックの上では全員無口だった。流石に疲れが出た。傷は痛むし、全身コウモリの排泄物の臭いを放っているし、空腹だった。
 ベースキャンプに到着すると、直ぐにシュライプマイヤーがすっ飛んで来た。護衛すべき人が負傷して戻ったのだから当たり前だ。彼はシオドアを守りきれなかったとステファン中尉を責めたが、中尉は知らん顔をして衛星電話を借りに行った。定時報告の時間は2時間も前に過ぎていた。しかしベースキャンプの衛星電話はフランス人が使いっぱなしだった。本国やグラダ・シティのフランス大使館や病院にかけまくっていた。それで中尉は軍のキャンプへ出かけて行った。
 シオドアは冷たい水のシャワーで全身を洗った。セルバ共和国の「七不思議」の一つに、「どの村にも必ず涸れない井戸がある」と言うものがある。水量の多い少ないはあっても、どんな旱魃でも最低限の飲料水を確保出来る井戸がどの町や村にもあるのだ。オクタカス遺跡発掘調査隊のベースキャンプにも、調査隊が来る前に軍が掘った井戸があった。

「セルバ人は井戸掘りの名人だ。」

 怪我が軽くて済んだフランス人がシオドアの為に水を汲んでくれながら、そう教えてくれた。

「連中は水脈を探し当てるのが上手いんだ。アフリカや中央アジアの乾燥地帯にセルバ人を連れて行けば国際貢献になると思うがねぇ。」

 体が綺麗になると、新しい服を着て、傷の手当をしてもらった。医者は軍医だった。縫合の必要はないと言って、消毒と傷薬を塗って包帯を巻いてくれた。化膿止めの内服薬をもらい、シオドアはやっと昼食にありついた。シュライプマイヤーが来て、グラダ・シティに帰りましょうと言ったが、まだ火曜日になっていないと突っぱねた。
 ステファン中尉が戻って来たのは夕方だった。軍のキャンプで水浴びでもしたのか、肌は綺麗になっていたが、軍服は汚れたままだった。彼は不機嫌で、シュライプマイヤーにシオドアをしっかり守れと言って、メサのキャンプへ1人で戻って行った。遺跡泥棒を見張る軍の当番に同乗して行ったが、夜はあの大岩の上で1人だ。

「貴方を怪我させたので、上官に叱られたのでしょう。」

とシュライプマイヤーが皮肉を言った。

風の刃 11

  洞窟の奥から真っ黒な塊が押し寄せてきた。悲鳴の様な耳障りな音と共に臭いと風が迫って来たのだ。
 本能的に身の危険を感じたシオドアは穴の出口に向かって走り出した。ステファン中尉も彼に並んで走っている。足元が覚束無く、躓きそうだ。後ろから何か恐ろしいものが迫ってくる。駄目だ、捕まる! 
 咄嗟にシオドアは隣で走る中尉に飛び付き、2人で足元の床に転がった。洞窟内に人間とも動物とも区別が出来ない悲鳴が満ちた。シオドアは中尉と並んで地面に伏せた。両手で頭を抱えたその上を、何かがゴーっと通り過ぎた。手に激痛が走った。それから埃が襲ってきた。
 長い時間伏せていたと思ったが、実際は1分もなかっただろう。先にステファン中尉が頭を上げて、背中越しに洞窟の内部を見た。

「終わった様です。」

と彼が呟いた。コウモリが騒いでいた。シオドアは体を起こした。洞窟の内部で人の呻き声が聞こえて来た。彼は声を掛けた。

「皆んな、大丈夫か?無事か?」

 マーベリックが答えた。

「大丈夫とは言えないな。石が飛んで来た様だ。他の人は?」

 彼はフランス隊のメンバーを1人ずつ呼んだ。シオドアはリオッタ教授を呼んだ。教授はコウモリの糞まみれになりながら、這い寄って来た。

「腕や脚を切った様だ。君もだろう?」

 言われて初めてシオドアは左手の甲から出血していることに気がついた。頭を庇ったので、手をやられたのだ。安否確認している間にステファン中尉が立ち上がって洞窟から駆け出して行った。シオドアの耳に彼の怒鳴り声が聞こえた。

「衛生兵! 怪我人発生だ!」

 互いに支え合って考古学者達は洞窟から出た。明るい陽光の下へ出て、初めて被害状況がわかった。衣服が切り裂かれ、顔や四肢も傷だらけだった。切創があれば打撲傷もあった。全員埃とコウモリの糞で汚れていた。フランス人が1人顔面に石を受けて出血が激しかった。警護の兵士達が手早く救護体制を取り、応急処置が施されたが、病院に連れて行った方が良さそうだ。マーベリックも元気そうに見えたが、服を脱ぐと石で打たれた傷が大きかった。

「何が起きたと思う?」

 シオドアがリオッタ教授の問いに首を傾げたところへ、ステファン中尉が小隊長と共にやって来た。中尉がマーベリックに告げた。

「多数の負傷者が発生した事故だ。発掘作業は暫く中止してもらう。」

 考古学者達の顔に失望の色が浮かび、シオドアは驚いた。彼らの情熱には恐れ入る。 小隊長が、午後洞窟の中を検めると告げた。シオドアは心配になった。

「落盤が奥で起きたんじゃないか? 数日様子を見てから入った方が良いかも知れない。」
「その心配はありません。」

と小隊長が断言した。自信満々なので、シオドアは奇異に感じた。落盤が起きたと考えていないのか? セルバ人達は、洞窟で起きたことの正体を知っているのか?
あの事故が起こった時のことを思い起こしてみた。洞窟の奥から爆風の様なものが出てくる前だ。確かにステファン中尉は俺に言った、「外に出ろ」と。更にその前。彼は俺の肩に手を置いた。あれは引き留めようとしたんじゃないのか?
 スステファン中尉を見て、シオドアは一瞬目を疑った。中尉は埃で汚れていたが、傷らしい傷は一つもなかった。並んで伏せたシオドアが手に大きな切り傷を負ったと言うのに。
 負傷者はトラックでベースキャンプへ運ばれて行った。遺跡に残った怪我の軽い者は発掘が中止と決まったので、後片付けに追われた。洞窟に入らなかった作業員達にレリーフや彫刻にシートを掛けさえ、出土品を箱詰めにする。出土場所を書いたタグを付けるので時間がかかりそうだ。
 シオドアはステファン中尉に言った。

「俺はキャンプに戻るけど、君はどうする? 俺を見張る? それとも遺跡を見張る?」

 すると、中尉は面白い返答を言った。

「汚れたので、キャンプへ行きます。」


風の刃 10

 日曜日は休みの筈だったが、雨季が近づいていると言う理由で、発掘隊は遺跡に出かけた。シオドアも同行した。キャンプにいてもすることがない。採取した植物の遺伝情報を解析しようにもコンピューターがないのだ。シュライプマイヤーに留守番を言いつけ、彼はリオッタ教授と共にフランス人達とトラックに揺られて遺跡へ向かった。マーベリックが神殿を見学してみないかと誘ってくれた。オクタカス遺跡にはピラミッドや神殿と思しき大きな建造物がなかったので、意外に思えた。

「山の斜面に洞窟があって、古代のオクタカスの住民はそこを神殿として使っていた様なんだ。セルバの古代遺跡にはそうした地下へ潜る形の祭祀跡が多い。」

 それでシオドアはメサへ上るのを中止して考古学者達と一緒に洞窟神殿に行くことにした。メサへ送ってくれる役目の兵士は、前日トラックの荷台で話しかけて来た男だった。

「調査隊が午前中に洞窟に入るそうだから、俺も同行させてもらえることになった。ステファン中尉にお昼に会おうと伝えてくれないか。」

 シオドアが伝言を頼むと、兵士は敬礼して車に乗り込み、走り去った。
 シオドアはライト付きのヘルメットを貸してもらった。考古学者達は日曜日だからと調査より下見気分だ。カメラ等の記録装備を持って、彼等は1時間後に洞窟の前に集合した。洞窟の入り口外部は階段が刻まれ、岸壁にそれらしく動物をモチーフにしたレリーフが彫られていた。穴は高さが3メートル程、幅は5メートル程だ。規模は大きくなさそうだが、洞窟はかなり奥まで伸びており、真っ暗だった。
 中へ入ろうと声をかけようとして、マーベリックが口を閉じた。彼の視線を追うと、ステファン中尉が立っていた。アサルトライフルは持っているが、銃口は下を向いていた。調査隊が一気に緊張に包まれた。マーベリックが彼に言った。

「洞窟に入るなとは言われていない。」

 中尉が素っ気なく言った。

「入るなと言いに来たのではない。」

 彼はシオドアを顎で指した。

「ドクトルから目を離すなと命令されている。」
「では・・・君も一緒にどうだね?」

 と陽気なイタリア人リオッタ教授が場の空気を和らげようと声をかけた。シオドアも入るなと言われたくなかったので、「行こうぜ!」と声をかけた。

「どうせ、昼になったら君はこの中が荒らされていないかチェックするんだろ? 一緒に入ればその手間が省けるじゃないか。」

 チェっと若い中尉は舌打ちしたが、手で進めとマーベリックに合図した。
 調査隊は洞窟の中に足を踏み入れた。
 洞窟神殿の床は、最初の10メートルばかりを石畳で造られていた。調査隊は壁や天井をライトで照らし、レリーフが岸壁に直に彫られていることを確認した。写真撮影をする学生が「手抜きだ」と呟き、調査隊の中に笑い声が起きた。
 空気が澱み出したのは、それから更に進んだ頃だ。シオドアは目に刺激が来る臭いを感じた。まさか、これも呪いの神殿じゃないだろうな、とステファン中尉を見ると、中尉も臭いと感じたのか、首に巻いていたセルバ軍支給の緑色のスカーフを鼻の上まで引き上げていた。まるで野盗だ、とシオドアは可笑しくなって、慌てて前を向いた。リオッタ教授が臭いの感想を述べたのは、それから数分後だった。

「コウモリの排泄物が堆積していそうだな。」

 先頭のマーベリックが同意した。

「どうやらコウモリの巣になっている様だ。皆んな、頭上に注意しろよ。」

 天井からキーキーと声が聞こえてきた。足元がフワッと柔らかくなったのは、コウモリの糞やゴミだ。シオドアはポケットを探り、大判のハンカチを好運なことに引っ張り出せた。ステファン中尉の真似をして顔下半分を覆った。
 洞窟は幅が狭くなり、壁の装飾がなくなった。しかし通路はまだ奥に伸びており、しかもほぼ真っ直ぐだ。天然ではなく人工の穴ではないか、とフランス人の1人が囁いた。洞窟の最深部なのか前方でコウモリの鳴き声が響いていた。
 シオドアは真っ暗な空間を見回した。天井でコウモリが蠢いている。時々羽音の様なものが聞こえるし、何かが落ちてくる。不快な空間だな、と思った。外へ出たくなって来た。多分、ここで引き返すと言っても、ステファン中尉は反対しないだろう。中尉が見張らなければならない様な古代の遺物もなさそうだ。

「ここは本当に神殿なのかな。」

とフランス人の中から声が上がった。

「そうじゃないとしたら、また調査対象が増える。この場所は何が目的で造られたのかってことだ。」

 その時、ステファン中尉がシオドアの肩を掴んだ。何? と振り返ると、中尉の目が緑色にキラリと光った。ヘルメットのライトがまともに当たった様だ。

「ご免よ、眩しかっただろ。」

 シオドアは慌てて謝った。そして初めて気がついた。ステファン中尉はヘルメットを被っていなかったし、ライトも持っていなかった。え? っと思った直後に、前方でドンッと大きな音が響いた。調査隊が足を止めた。コウモリが騒ぎ出した。空気が動いた、とシオドアが感じたと同時に、ステファン中尉が叫んだ。

「走れ! 外へ出ろ!」


風の刃 9

  ステファン中尉の言葉通り、発掘隊は1時間半後に戻ってきた。シオドアとシュライプマイヤーは中尉と一緒に陸軍のトラックの荷台に乗ってベースキャンプへ向かった。昼当番の兵士5人も一緒だったので、運転席と助手席の2人を除いた3人の兵士と合計6人、狭い荷台でガタガタ道を運ばれて行った。兵士達は普段4人だけなのに、アメリカ人が2名増えて迷惑だったことだろう。
 昨晩は暗くなっていたのでわからなかったが、ベースキャンプから最寄りの村が見えた。民家の屋根が20軒ばかり森の向こうに見えていたので、案外人間の生活範囲から近いのだと安心出来た。ジャングルの中の村は農業をしているのだろう、果樹園らしき場所が村の反対側に広がっている様だ。人の生活圏に近いのに、オクタカス遺跡は今迄手付かずだったのだ。
 キャンプの一番大きな建物が集合棟と呼ばれていて、食堂と会議室を兼ねていた。事務所もそこにあり、中に入るなりステファン中尉は事務所の衛星電話を借りて定時報告を行った。シオドアはボディガードとテーブルに着いた。兵士達は小隊のキャンプへ行ってしまったので、彼等だけだった。中尉はどっちへ行くのだろうと思いつつ、シオドアは豆の煮込んだものと硬いパンの食事をもらった。中尉はまだ早口のスペイン語で相手と喋っている。低い声なので不明瞭だが、シオドアがボディガードを連れて来たことに苦情を言っている様にも聞こえた。
 報告を終えた中尉が食事を受け取ってテーブルにやって来た。シオドアは彼が食べ終わるのを辛抱強く待ってから、話しかけた。

「電話の向こうはケツァル少佐かい?」
「他に誰かいますか?」
「訊いてみただけだ。」

 中尉は食べ終わるとタバコを出して、同席者に断りもなく火を点けた。シガーだが、シオドアが今迄嗅いだことがない爽やかな香りが微かに嗅ぎとれた。タバコの箱には銘柄がなく、模様が描かれていた。遺跡の壁に刻まれているような線画だ。

「君はいつからここにいるんだ?」
「今日で38日目です。」
「街に帰りたいだろう?」

 チラッと中尉がシオドアの目を見た。わかりきったことを言うなよ、と言われた様な気がした。少なくとも、シオドアのお守りをする為にここへ派遣されている訳でないと分かって、シオドアはちょっぴり安心した。
 シエスタが終わると、シオドアはシュライプマイヤーにキャンプに残れと言った。シュライプマイヤーが抗議しかけるのを遮った。

「ここには、ステファン中尉も陸軍小隊もいるんだ。アフガニスタンやイラクだったら、君がいてくれた方が安心だろうけど、ジャングルではセルバ人の方が役に立つと思うな。」

 夕方には調査隊と一緒に戻って来るから、とシオドアはボディガードを宥め、再び兵士達とステファン中尉と共にトラックの荷台に乗った。
 兵士の1人が話しかけて来た。

「ドクトル、貴方は考古学者ではないのですか?」
「俺は医学部の講師なんだ。」
「お医者さん?」
「そうじゃない。遺伝子工学だ。人間や植物の細胞を分析して薬を作ったりする。」

 人間の能力開発をしているなんて説明をしてもややこしいだけだろう。それに研究所の真実をシオドアはまだ思い出せなかった。いい加減なことを言って上層部から睨まれたら、セルバ共和国から連れ戻されてしまう。
 兵士がまた尋ねた。

「遺伝子を分析する人が、どうして遺跡に来ているんですか?」
「珍しい植物がないか、探すんだよ。」

 シオドアは誤魔化した。

「今朝はメサの上にいたけど、岩場の植物は薬になりそうになかった。午後は遺跡の中で探そうかな。」

 ステファン中尉が駄目だと言わなかったので、結局彼はその日の夕方迄発掘現場の近辺で植物を適当に採取して回った。中尉が護衛も兼ねているのか目の届く範囲にいて、彼の方は発掘作業員の手元を見張っていた。出土物が1箇所に集められ、学生が丁寧に刷毛で土を落としたり、洗ったりしている。そこそこ原型を留めた壺などもあったので、あれは持ち出して良いのかとシオドアは中尉に尋ねた。

「あれは地面に埋まっていた物です。土の上にある物は国外に持ち出さない限りは、大学や博物館で研究したり展示して構いません。」
「壁画や神像を遺跡から持ち去るのは駄目ってことか?」
「壁から剥がしたり、祭壇に置かれている物を動かすことは禁止です。」
「もし、あの壺が祭壇に置かれていた物だったら?」
「どう言う意味です?」
「あの壺は本来祭壇に置かれていた物だったが、誰かが動かして、落っことして土に埋まっていたとしたら・・・」

 シオドアの意地悪な質問に、ステファン中尉は素っ気なく答えた。

「一旦土に触れてしまった物は、只の壺です。」
「国内の何処へ持って行っても良いの?」
「貴方は何処へ持って行きたいのですか?」

 ”反撃”されて、シオドアは返答に困った。

「例えば、骨董品屋とか・・・」

 中尉が黙っているので、彼は思いついた名前を口に出した。

「ロザナ・ロハスとか・・・」

 中尉が笑った。

「あの女は、高く売れる物しか買い取りませんよ。」

 そして忠告をくれた。

「もしあの女とお知り合いでしたら、さっさと別れることです。どんな関係であれ、付き合っても碌なことにならないでしょう。」



2021/06/21

風の刃 8

  オクタカス遺跡の西にウルルを4分の1の高さにしたような岩のメサがあった。一応道がつけられており、シオドアは小隊のオフロード車で上迄送ってもらった。シュライプマイヤーも一緒だ。彼は遺跡に残って地面をいじるリオッタ教授の護衛の方が良かったのではないか、とシオドアは内心思ったが、追い払えないので仕方なく同伴した。高い湿度と気温でシュライプマイヤーは汗だくになっていた。軍隊時代はアフガンに派遣されていたと言うから、砂漠の遺跡の方が良かったのだろう。
 メサの頂上付近の平な場所にジープを駐めて岩と同じ色のタープを張った簡単なキャンプがあった。タープの下にデッキチェアを置いて座っている男が、双眼鏡で遺跡を見下ろしていた。迷彩服を着て、傍にアサルトライフルを置いている。少し浅黒い肌、丸みのある顔は黒いゲバラ髭を生やしていた。
 小隊長はシオドアに彼を指差し、一声、「お連れしました」と声をかけた。デッキチェアの男が双眼鏡を下ろし、こちらを見たので、小隊長が敬礼した。男が立ち上がり、敬礼を返した。それで用事は済んだのだろう、小隊長は車に乗り込み、来た道を戻って行った。
 シオドアとシュライプマイヤーは大岩のメサの上に取り残された。相手はシュライプマイヤーほどではないが、セルバ人としては大柄な方だ。そして、シオドアは意外に感じたのだが、この大統領警護隊の男は、メスティーソだった。胸に緑の鳥の徽章を付けているが、明らかに白人の血が入っている顔立ちだ。彼が先に声をかけて来た。

「ドクトル・アルスト?」
「スィ。ステファン中尉?」

 中尉が頷いたので、シオドアはボディガードを振り返った。

「友達のケビン・シュライプマイヤー、ボディガードをしてもらっている。」

 ”友達”と呼ばれて、シュライプマイヤーがピクリと眉を動かした。ステファン中尉はシオドアを無視してシュライプマイヤーを品定めするかの様に眺めた。そして言った。

「リオッタは彼が来るとは言わなかった。」

 よく透る声で、少し非難めいた口調だった。シオドアは、仕方がないじゃないか、と心の中で毒づいた。俺だって護衛を連れて歩きたくないんだ。

「来てしまったのだから、仕方がない。」

 ステファン中尉はデッキチェアに戻った。

「夕方、小隊長が迎えに来る迄ここにいなさい。それが嫌なら、歩いてキャンプへどうぞ。」

 シオドアに言ったのかシュライプマイヤーに向けて言ったのか、判断付けかねた。日陰がタープの下しかなかったので、シオドアとシュライプマイヤーは渋々ながらステファン中尉のそばの岩の上に座った。中尉が双眼鏡を貸してくれたので、それで遺跡発掘の様子を眺めたり、鳥を見た。
 水筒はキャンプから持って来ていたので水分補給が出来たが、暇つぶしは手段がなかった。携帯電話が圏外になっており、ゲームも出来ない。電池を節約しなければならないので、無駄に使えない。

「中尉、喋っても構わないか? 英語だが・・・。」
「ご自由に。」

 素っ気ない許可が出たので、シオドアはシュライプマイヤーにアフガン時代の軍歴を尋ねた。他に話題もない。遺伝子の話をする訳にいかなかったし、ボディガードにも初対面の軍人にもエル・ティティの思い出を語りたくなかった。シュライプマイヤーもあまり過去を詳細に語りたくない様子だったが、他にすることもないので、当たり障りのない戦闘の話や斥候に出た時の話を語った。中央アジアの過酷な派遣経験の話に、若いセルバ軍人が興味を抱くかと期待してデッキチェアを見ると、怪しからぬことにステファン中尉は帽子を顔に載せて寝ていた。
  シュライプマイヤーの話のネタが尽きてしまった。仕方がないので、次はシオドアが今回の大学講師の職を得る為にどれだけ文化・教育省の役人と言葉の戦いをしたかを語った。英語で話しているので、ステファン中尉は理解出来ないかも知れないと思いつつ、セルバ共和国のお役所仕事のスローさを散々愚痴っていたら、帽子の下でクスッと笑う声が聞こえた。
 英語が理解出来るんだ。もしかするとシュライプマイヤーの武勇伝も全部聞いていたのかも知れない。
 暑さと湿気で座っているだけで疲れてきた。そろそろお昼だ、と思う頃にやっとステファン中尉が起き上がった。双眼鏡で遺跡を眺め、デッキチェアから下りた。彼が帽子を被り、サングラスをかけ、アサルトライフルを手に取ったので、シオドアは座ったまま尋ねた。

「何処かへ行くのかい?」

 自然とスペイン語で話していた。中尉が彼を見下ろした。

「仕事です。」

 シオドアも立ち上がったので、シュライプマイヤーも立った。

「パトロールだね?」
「スィ。」

 ステファン中尉はそれ以上余計な話はせずに大岩を下り始めた。シオドアがついて行くと当然ながらシュライプマイヤーもついて来た。
 慣れているのか中尉は野生の獣の様に岩の上をするすると降りて行く。まるで道がついているかの様だ。シオドアは彼が通った道筋をしっかりと辿った。外れると滑落すると本能的に分かっていた。後ろを必死の形相でついて来るシュライプマイヤーは気の毒だったが、手を取って誘導してやる余裕はなかったし、向こうも嫌だろう。曲がりなりにも元軍人だ。
 岩山から降りると、朝小隊長に送ってもらった道に出た。ステファン中尉は近道をした訳だ。そのまま遺跡の入り口まで歩いて行くと、調査隊が昼休みでキャンプへ戻るところだった。マーベリックが中尉に気付いて乗りかけていた車から離れてやって来た。地図を出して、午前中はこの辺りを掘ったと言う報告をした。中尉が頷き、行ってよろしいと合図をしたので、彼は車に戻り、クラクションを鳴らして走り去った。小隊の兵士が5名ばかり残っていた。昼休みの当番なのだろう。
 遺跡の中へ入った。シオドアは昨夕に少しだけ見学したので、目新しいものはないな、と思った。ステファン中尉が新しく掘られた区画へ行き、壁や穴を見て行くのを、シオドアとシュライプマイヤーは見物した。

「何をしているんです?」

 シュライプマイヤーが尋ねたので、シオドアは本当のことを教えてやった。

「調査隊が貴重な遺物を勝手に持ち出したりしていないか、確認しているんだよ。それが彼の仕事だ。」

 シュライプマイヤーは陸軍兵士達を見た。シオドアはそれも説明した。

「向こうの陸軍兵はゲリラを警戒している。彼等は調査隊の護衛だ。」

 体を動かさなかったが、空腹を感じていた。水筒の水の補給もしたい。シオドアは穴を検分しているステファン中尉のそばへ行った。

「俺達も昼休みにしたいんだが・・・」

 中尉が軽々と穴から出て来た。

「調査隊がシエスタから戻って来たら、交替でキャンプに行きます。それまで我慢して下さい。」
「シエスタが終わる迄何時間あると思っているんだ?」

 シオドアが腹を立てかけると、中尉は平気な顔で応えた。

「1時間です。彼等はフランス流に行動しています。セルバ時間で働いているのではありません。セルバ流にシエスタを取れば、日が暮れてしまいます。遺跡を掘れないでしょう。」

 言われてみれば、その通りだった。次の壁を眺めている中尉にシオドアはまた尋ねた。

「君がリオッタ教授を通して俺をここへ呼んだのは、どんな理由だ?」

 すると、中尉はけろりと「知りません」と答えた。

「私は上官の命令で貴方をここへ呼んだだけです。」

「上官って・・・ケツァル少佐かい?」
「スィ。」

 シオドアは文化保護担当部の部屋で、C・ステファンと書かれたネームプレートが置かれた机を見たことを思い出した。あれはこの男の机だったのだ。

「少佐はどんな理由で俺をここへ遣ったのだろう? 俺にグラダ・シティから離れろと彼女は言った。何故だい?」
「知りません。」

 逆に中尉が質問して来た。

「貴方は何方かを怒らせたのですか?」

 シオドアは既知感を覚えた。この中尉との会話はまるでケツァル少佐と話している感じがする。

「俺は誰も怒らせちゃいない。ピラミッドのそばに行っただけだ。警察官に叱られたけどね。」

 初めてステファン中尉が彼をまともに見た。上から下までじっくり眺めてから、成る程、と呟いた。

「何が成る程なんだ?」
「貴方がここに来た理由です。週明けにはグラダ・シティに帰れますよ。それ迄はここで大人しくしていて下さい。」

風の刃 7

  ピクニック前の子供ほどではないが、遠出はやっぱり浮き浮きする。シオドアはボディガードのシュライプマイヤーとリオッタ教授と共に空港へ行き、指定された飛行機に乗った。エンジン音の煩いプロペラ機で、新しいものと思えなかったので、内心不安だったが、リオッタ教授は気にしなかった。飛行中はシオドアにオクタカス遺跡がどんな場所か喋り続けた。シオドアは半分も聞いていなかった。大学には金曜日の午後出かけて火曜日の昼に戻ると予定を提出しておいた。学生達はアルスト先生は新種の植物でも採取に行くのだろうと思っているようだ。本格的な授業はまだ始まったばかりなので、シオドアが出したレポートの宿題に喜んでいた。きっとすぐに書ける題材だろう。シオドアはあまり内容を考えずに出題したので、帰って来てから授業がどんな方向へ向かうのか、考え付かなかった。これで1年間過ごせるのか?
 飛行機がダートの滑走路に降りた時は舌を噛むかと思った。シュライプマイヤーは元軍人だから慣れているのだろう、2人の学者の蒼白な顔を見て、ちょっと優越感に浸っている様子だった。
 飛行場から迎えのオンボロバスに乗って、ジャングルに入って行った。リオッタ教授が虫除けのスプレーを1本分けてくれた。
 オクタカス遺跡は背後に岩山が聳え立つ森の端にあった。フランスの大学が主導する発掘隊が既に半分ほどジャングルから掘り出していた。蔦や樹木を伐採して石の住居跡や道路と思しきものを陽光の中に曝し出していた。所々にシートがかけてあるのは、壁画やレリーフなどを保護するためだ。

「樹木を伐採して出てきたものを記録している段階です。調査はこれから何年もかかりますよ。私もここで働けたらなぁ。」

 リオッタ教授は目を輝かせて言った。博物館の物を借りてきて学生達に教室で講義するだけの生活に退屈していることは明らかだった。
 フランス調査隊の指揮者は驚いたことにアメリカ人だった。レビン・マーベリックと自己紹介した彼は、この調査隊の中ではスペイン語を使うこと、と最初に注意を与えてきた。

「我々をゲリラから守っている政府軍の兵士達に理解出来る言葉で話すことが、発掘許可の条件に入っているからね。」

 と彼はシオドアに英語でこそっと囁いた。

「そんなに大きな遺跡じゃないんだが、今迄見たこともないレリーフや壁画がたくさんあって、正に考古学者にとって宝の山だよ。」

 そう言われてもシオドアには興味がなかった。呪いの神像や笛がなければ良いが、とそれだけを願った。初日は到着して直ぐに日が落ちたので、遺跡から車で半時間のベースキャンプで歓迎会をしてもらった。フランス人達は全部で5人、後は彼等が連れてきた学生10名、現地で雇った作業助手20名。コックが1人いて、期待以上に美味しい料理を出してくれた。安物で申し訳ない、とフランス人がワインを開けてくれたので、楽しい食事会になった。一度護衛の陸軍小隊の隊長が挨拶に来た。その人がステファン中尉かと思ったが、違った。

「ステファン中尉は大統領警護隊に所属されております。」

と小隊長が言った。

「エル・パハロ・ヴェルデは我々とは距離を置かれています。明日、中尉のところにご案内します。」

 エル・パハロ・ヴェルデ、つまり”緑の鳥”、大統領警護隊の異名だ。小隊長が仲間のところへ帰って行くと、マーベリックが忌々しげに言った。

「連中は何かと言うと、”緑の鳥”にお伺いを立てるんだ。村へ買い物に行くのも、木を伐るのも、地面を掘るのも、中尉のお許しが出ないことには何もさせてもらえない。」
「だが、お陰で今のところ、我々はゲリラの襲撃を受けていないし、泥棒も来ない。村で聞いた話では、ゲリラの活動が近頃活発になって来ているそうだ。このキャンプが無事なのは、エル・パハロ・ヴェルデがいるからだと、村で噂されている。」

 フランス人の言葉に、マーベリックは「ふん!」と鼻先で笑った。リオッタ教授が彼等が言い合いを始めそうな雰囲気を察して、話題を変えた。

「ところで、村の住民にこの遺跡に関する言い伝えとか、昔話は残っていないのかな?」

 マーベリックとフランス人達が銘々の顔を見合わせた。言い伝えはあるんだな、とシオドアは思った。マーベリックが自分のグラスにワインを継ぎ足しながら答えた。

「遺跡が遺跡として残るのは、地元の人間に近づいてはいけないと言う話が伝わっているからさ。このオクタカスも例外ではない。」

 若いフランス人がつぶやいた。

「死者の街、です。」


第11部  紅い水晶     19

  2台目の大統領警護隊のロゴ入りジープがトーレス邸の前に到着した時、既に救急車が1台門前に停まっていた。クレト・リベロ少尉とアブリル・サフラ少尉がジープから降り立った。2人は遊撃班の隊員で、勿論大統領警護隊のエリートだ。サフラ少尉が一般にガイガーカウンターと呼ばれる放射線計測器...