2024/01/06

第10部  穢れの森     12

  翌朝、テオはマハルダ・デネロス少尉とキロス中尉と共にグラダ・シティに戻った。勿論空間通路を利用して。早朝の街中でも空中からいきなり人間が出現するのを見られるのは非常に危険だ。先導のキロス中尉は”着地”すると直ぐに周囲を見回し、目撃者がいないことを確認した。

「俺は直ぐに大学へ行って、回収した骨を鑑定してみる。」

とテオは言った。キロス中尉は現在地を携帯で調べた。

「大学までは車が必要です。仲間を呼びましょう。」
「いや、そこまでしてもらう必要は・・・」

 するとデネロスがテオに囁いた。

「まだバスもタクシーも走っていませんよ。」

 確かにやっと太陽が東の港の方角から顔を出したところだった。大都会グラダ・シティはまだ寝ている人の方が多い。日曜日だったし、セルバ共和国のキリスト教会は早朝のミサを好まない。日が昇る時刻は、大巫女ママコナが国内の平和を祈る時間とされていた。異教の神への祈りで彼女を妨げてはならない。
 キロス中尉がどこかに電話をかけた。彼が所属する大統領警護隊遊撃班かと思いきや、中尉はかなり砕けた口調で喋った。

「ホアン、ファビオだ。朝早くすまないな。ちょっと車で迎えに来て欲しいんだ。場所は・・・」

 テオはデネロスを見た。誰にかけているんだ?と目で問うてみたが、彼女もちょっと首を傾げただけだった。
 ほとんど一方的に喋ったキロス中尉は電話を終えると、同伴者達の疑問の視線に答えた。

「小学校時代のダチです。ほぼ”ティエラ”ですが、夜目は利く男です。」

 つまり遠い祖先に”ヴェルデ・シエロ”がいて、遊び仲間に本物の”ヴェルデ・シエロ”が混ざっていても全然気にしない、寧ろその存在に全く気づかない連中だ。

「こんな朝早い時間に呼び出して、良いのかい?」

 テオが心配すると、キロス中尉は笑った。

「彼は商売柄かなり早い時間から仕込みをしてますから、今の時間はそろそろ街に出て行く頃です。」

 どんな商売なんだ?とテオとデネロスが考えるうちに、古いエンジンの音が近付いてきた。「ああ、来ました」とキロス中尉が言ったので、振り返ると、小型のバンがやって来るところだった。バンの車体には派手なピンクのネズミとブルーの猫の絵が描かれ、飾り文字で「ホアンのパン」と書かれていた。

「パン屋さんだわ!」

 デネロスが嬉しそうな声を上げ、キロス中尉が何故か誇らしげに微笑んだ。

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第11部  紅い水晶     21

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