テオは即答を避けた。セルバ流にやんわりと遠回りした。
「もし、生き残りがいたとして、その人達は長老会に祖先の申告を義務付けられているのでしょうか?」
「義務はありませんが、どの家系に属するか、”ツィンル”である限り、部族の長老に把握されていなければ、一族の中で発言力を持ちませんし、保護を受けるのも難しくなります。一族の血が薄いミックス達が生活に困窮しているのも、彼等の親、その親の代に家系の登録から外れたからです。ご存じだと思いますが、サスコシ系のサンシエラ家は経済的に大成功を収めています。彼等は一族の血がかなり薄いですが、家系をしっかり族長に把握してもらっているので、末端の子孫が困った場合に保護を受けられるのです。」
サカリアスはロホを見た。
「弟の部下にブーカの女性がいますね。彼女の家系も4分の1、8分の1の”ツィンル”で、ブーカ族の家系の一つとしてしっかり把握されています。
もし、”禁断の村”の生き残りがいるのであれば、その人達は家系管理から外れてしまっているか、家系を偽って他部族の中に紛れ込んでいることになります。後者は掟破りです。何故なら、あの”禁断の村”の住民はほぼグラダで、どの部族の人間でもないからです。」
「反逆者になるのですか?」
テオはドキドキした。胸の鼓動をサカリアスに聞かれはしまいかと不安になった。彼の呼吸の微かな変化をロホが感じ取り、顔を上げた。サカリアスもわかったに違いない。
「反逆者とは、一族に害を与える者のことです。」
とサカリアスがキッパリと言った。
「隠れている”禁断の村”の生き残りがいたとして、その人は一族に害をなすことを考えているのでしょうか? もし、ただ隠れているだけなら、叛逆ではありません。私はその人に出逢ったら、勧告します。新しい家系を立ててください、と。その人だけの部族になるかも知れませんし、その人の家族が入れば、数人だけの部族となるでしょう。少なくとも、能力を隠して生きる必要は無くなります。そして一族に対して発言権も得ます。発言権があれば、幼子を大神官代理に差し出すことを拒否することも出来ます。神殿は・・・」
サカリアスはちょっと苦笑に似た微笑みを浮かべた。
「”オルガ・グランデの戦い”で懲りているのです。大神官の修行は若年にうちに始めなければなりませんが、本人の意思を尊重しなければ能力を発揮することが難しい。シュカワラスキ・マナの様に修行途中で逃げ出されては、20年近い神殿の教育が無駄になります。ですから、グラダを祖先に持つ子供を見つけても、その親を説得して話し合うでしょう。現代風に処遇すると思います。子供を一生神殿に閉じ込めたりせず、寄宿学校のように扱うと私は思います。何故なら、現代の神官達はそう言う暮らしをしているのですから。」