テオはもっとブーカ族の旧家について知りたいと思ったが、親友の実家だし、相手を怒らせたくもなかったので、適当に切り上げて遑を告げた。ロホとテオが家から出る時、誰も見送りに来なかった。普段もそうなのだろう、ロホが全く気にせずに車まで歩いて行くので、テオはついて行った。
「病院へ行ってみるかい?」
と彼はロホに訊いてみた。グラダ大学医学部付属病院は、テオにとっては庭みたいな場所だ。研究のために頻繁に出入りしているし、向こうから仕事を依頼されることも多い。入院患者の身元を調べるのはそんなに難しくなかった。ロホは車のドアに手をかけて、ちょっと考えた。
「大神官代理に今回の事件に関する考えを聞くのですから、面会出来るのでしたら、面会したいですね。」
「せめてどんな容態なのかだけでも調べてみよう。」
2人は車に乗り込み、マレンカ家の地所から出た。
「君のお兄さんはもっと口が固い人だと思ったが・・・」
テオが感想を述べると、ロホが苦笑した。
「兄はあまり現在の神殿の形態を好いていないのです。何もかも一族の人々に対して秘密にしている、長老会の決定も時に無視する、政府を意のままに操れると錯覚している、と批判しています。太古からの神を敬っているように見えて、実際は俗物的で生臭い政治と経済の問題に突っ込みすぎる、と言ってます。多分、”名を秘めた女の人”もあまり尊重されていないのではないでしょうか。隔離された場所で一生を暮らすあの女性に、思いやりを持っているのかどうかも疑問ですね。 兄はそう言っていつも憤っています。」
「2番目のお兄さんは神殿で働いているんだろ?」
「ウイノカとは滅多に出会わないので、私はあの兄が何を考えているのか、わかりません。」
でも、とロホは囁いた。
「サカリアスとウイノカは仲は良いんです。」