2024/12/04

第11部  太古の血族       23

  テオはもっとブーカ族の旧家について知りたいと思ったが、親友の実家だし、相手を怒らせたくもなかったので、適当に切り上げて遑を告げた。ロホとテオが家から出る時、誰も見送りに来なかった。普段もそうなのだろう、ロホが全く気にせずに車まで歩いて行くので、テオはついて行った。

「病院へ行ってみるかい?」

と彼はロホに訊いてみた。グラダ大学医学部付属病院は、テオにとっては庭みたいな場所だ。研究のために頻繁に出入りしているし、向こうから仕事を依頼されることも多い。入院患者の身元を調べるのはそんなに難しくなかった。ロホは車のドアに手をかけて、ちょっと考えた。

「大神官代理に今回の事件に関する考えを聞くのですから、面会出来るのでしたら、面会したいですね。」
「せめてどんな容態なのかだけでも調べてみよう。」

 2人は車に乗り込み、マレンカ家の地所から出た。

「君のお兄さんはもっと口が固い人だと思ったが・・・」

 テオが感想を述べると、ロホが苦笑した。

「兄はあまり現在の神殿の形態を好いていないのです。何もかも一族の人々に対して秘密にしている、長老会の決定も時に無視する、政府を意のままに操れると錯覚している、と批判しています。太古からの神を敬っているように見えて、実際は俗物的で生臭い政治と経済の問題に突っ込みすぎる、と言ってます。多分、”名を秘めた女の人”もあまり尊重されていないのではないでしょうか。隔離された場所で一生を暮らすあの女性に、思いやりを持っているのかどうかも疑問ですね。 兄はそう言っていつも憤っています。」
「2番目のお兄さんは神殿で働いているんだろ?」
「ウイノカとは滅多に出会わないので、私はあの兄が何を考えているのか、わかりません。」

 でも、とロホは囁いた。

「サカリアスとウイノカは仲は良いんです。」


 

2024/12/02

第11部  太古の血族       22

  サカリアスは、先祖の秘密を神殿に知られても大丈夫だと言う意味のことを言った。しかし、テオは信じられなかった。いや、サカリアスが信じられないのではない。神殿と言う「組織」が信じられなかった。今回の毒の事件からも分かるように、彼等は他人を傷つけることを平気でするではないか。
 それに、テオが知っているグラダの子孫、ケサダ教授には彼個人の秘密がある。恐らく養父のムリリョ博士と妻のコディアしか知らない秘密だ。もしかすると、母親も知らないかも知れないのだ。それを神殿に絶対に知られたくない筈だ。
 テオは話題をグラダの子孫の話から、本来の訪問目的に変更した。

「ところで、その現在の大神官代理ですが、お体が悪いのでしょう? 神殿ではなく外で治療されていると推測されていますが、どこにおられるか、ご存じないですか?」

 ロホも我に帰ったように、兄を見た。

「そうだ、大神官代理の行方をお聞きしに、訪問しています。兄様はご存じないですか?」

 サカリアスが肩をすくめた。

「あの男は・・・」

 一族から尊敬されている筈の人物を、彼は「あの男」と呼んだ。

「伝統的な治療を信用出来ずに、白人の医療に頼っているよ。」

 彼は皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「君達のすぐ近くにいます。グラダ大学医学部病院にね。」

 えっ!と驚いたのは、テオもロホも同じだった。 神の代理人である大神官代理が、現代医学に頼って入院している?

「そんなに悪いのですか?」

 テオの質問に、サカリアスは溜め息をついた。

「恐らく、タチの悪いデキモノだろう。」

 つまり、癌だ、とテオは思った。ロホが憂い顔になった。

「手術を受けたのでしょうか?」
「それはわからない。だが、彼は病院にいる。」


第11部  太古の血族       23

  テオはもっとブーカ族の旧家について知りたいと思ったが、親友の実家だし、相手を怒らせたくもなかったので、適当に切り上げて遑を告げた。ロホとテオが家から出る時、誰も見送りに来なかった。普段もそうなのだろう、ロホが全く気にせずに車まで歩いて行くので、テオはついて行った。 「病院へ行...