「神官と言うのは、どうすればなれるんだい?」
テオが質問すると、ケツァル少佐とステファン大尉は顔を見合わせた。2人ともよく知らないんじゃないか、とテオはふと思った。 ”ヴェルデ・シエロ”社会は秘密主義が多い。一族の中でも知らないことの方が多いようだ。ましてや、この姉弟はそれぞれ親が幼い頃に死亡して、一族のしきたりをよく知らない養親や片親によって育てられた。彼等に訊くより、名門育ちのロホに聞いた方が早いかも知れない。
「聞いた話では・・・」
と少佐が始めた。
「昔は神官の資質を持つ幼い男の子を親から引き離し、神殿で育てたそうです。そしてその中で一番神の声を聞ける男の子が大神官に選ばれたと言います。」
「それはグラダ族がまだ生きていた時代だね?」
「スィ。グラダがいなくなってからは、各部族から、同様にして男の子を選び、神殿に集めて教育しました。大神官はいないので、神託を聞ける人はおらず、政の決定は彼等の合議で決めたようです。勿論、ママコナも同じで、グラダ以外の部族の女の子が連れて来られましたが、彼女達の場合は、先のママコナが亡くなってから最初に生まれた子供と決まっていました。ママコナは先代の心を受け継ぎ、ピラミッドの力の下で従者によって教育されました。」
「それは現代も続いています。」
とステファン大尉が付け加えた。
「私は神官候補の若い見習いを2人知っています。サスコシ族の少年達で、いずれ彼等のどちらかが神官に選ばれ、残った方は従者になって神殿に残るか故郷に戻って部族の政治に関わることになるでしょう。若くても長老会のメンバーになります。」
「するとアイオラ少尉は複数の候補者を探さないといけないのか?」
「スィ。ただ純血種の中からグラダを遠い祖先に持つ5歳未満の男の子となると、全国を探しても数はいないでしょう。」
「君たちそのものの人口は少ないからな。下手すると、全国の5歳未満の純血種の男の子全員を神殿に連れて行く羽目になりかねない。」
そうなると、ケサダ家の赤ん坊も連れて行かれてしまう。
「何故、今、子供が必要なんだ? 誰か神官が引退するのか?」
少佐がちょっと考えた。
「私は神官全員を知っている訳ではありませんが、後継者が必要な年齢の方は居られないと思います。」
するとステファン大尉が何かを思いついた。
「誰か、お体を悪くされているのではありませんか?」